『わたし史上最高のおしゃれになる!』『お金をかけずにシックなおしゃれ』などの著書があるファッションブロガー小林直子さんが、愛用しているアイテムをご紹介します。
20年以上使っている手袋をなくしてしまった
それは今年の3月も終わりのころのことでした。まだまだ寒い中、歩いて30分ほどの図書館へ向かおうと、バッグに入れたはずの手袋を取り出そうとしたところ、片方しか見つかりませんでした。
去年の終わりから今年の春にかけて、諸事情により、私は毎日、手袋をして、朝から図書館へ通っていました。図書館に着いたら手袋を外し、また手袋をして家へ帰る。あるときはこれを1日に2回繰り返していました。
手袋をつけたり外したり、バッグに入れたり出したりする回数が多く、途中で嫌な予感はしたものの、何も対策をしないまま毎日を過ごしていたら、やはり途中で手袋を片方なくしてしまいました。
なくしたのは20年以上使っている茶色いスエードの手袋。ブランドはシビラ(Sybilla)でした。シビラらしい深い茶色で、手の入れ口にはスカラップがほどこしてあり、手を入れると吸い付くようにぴったりはまる、素敵な手袋でした。
手袋は“あってもなくても生きていけるもの”ではあるけれど…
はて、これはいつどういう理由で買ったのだろうかと、記憶を呼び起こしてみると、イギリス旅行に行く前に、寒さ対策として買ったことが思い出されました。
当時、私が読んだ旅行書の中に、「ヨーロッパ旅行できちんとした身なりをしている人と思われたいなら帽子と手袋は必須」という文章があり、私はそれを真(ま)に受けて、ちょっと高価な革の手袋を新調し、薄いベージュのコートに別珍の帽子とスエードの手袋といういで立ちでイギリスを旅したのでした。
自慢するわけではありませんが、私は大変ものもちがいいのです。特に手袋、ベルト、スカーフなどの小物類は10年、20年と当たり前に使っています。この手袋にしても、片方をなくしさえしなければ、そのままずっと使い続けていたでしょう。
手袋というものはあってもなくても生きていけるものです。しかしあったらあったで、手指を冬の寒さや乾燥から守ってくれます。それだけではありません。どうやら、手袋というものはそれ以上の何かを持っているようなのです。
手袋を糸口に、記憶がイメージと感情を伴って飛び出た
手袋を片方なくしたことをきっかけに、過去の自分の手袋遍歴について思い返してみることにしました。そうしたところ、面白いように手袋をしていたときの情況が脳裡に浮かび上がってきました。
このスエードの前に使っていた手袋は、ヨウジヤマモトの袖口が手袋になったウールジャージーのトップスの手袋部分だけ切り離して、自分で手の入り口をかがったものでした。袖口が手袋だと、手を洗うときにいちいち濡れるので、切り離して使っていたのです。カーキ色で、薄くて使いやすく、気に入っていましたが、これも途中で片方だけ紛失。
それより前の学生時代には、黒いコートにあわせて黒いカシミヤのシンプルな手袋を使っていたこと、そしてその手袋をして、いつも人がほとんどいない武蔵野線の新小平駅のホームで電車を待っていたことなどを鮮明に思い出しました。
高校生のころの手の入り口に白い模様編みが施されていた、口紅のような深いバラ色のニットの手袋で、学校近くのバス停でなかなか来ないバスを待っていた記憶、中学生のころのクリーム色のニットの五本指手袋をして紅葉坂にある県立青少年センターで演劇部の発表を行った記憶、そして小学生のころの手の甲のところにお花の刺繍がしてあったニットの白いミトンをスキー場に行く途中の車の中でこすり合わせたら、静電気がバチバチした記憶など、手袋を糸口にして、次々と過去の記憶がイメージと感情を伴って飛び出てきました。
日本の手袋の産地、香川県のメーカーから選んだ
手袋選びは慎重にしなければなりません。なぜなら、その手袋は過去の記憶が記録されたソフトな記憶媒体となってしまうからです。それはモノとして朽ちてもなお、私たちの記憶を保持し続けます。
そこで私は新しい手袋を買うのに、素材、色、手指が出ているほうがいいか出ていないほうがいいか、どこで、誰から買うかなど、2か月にわたり検討し続けました。
検討している間にわかったのは、日本の主要な手袋の産地は香川県で、明治時代から生産されているということ、手袋メーカーが数社あり、それぞれ独自のデザインで生産しているということでした。どうせなら、そういったメーカーから買おうということで、あれこれ悩み、最終的には色と素材を優先し、過去使っていて一番使いやすかったのと同じウールジャージー素材のごくシンプルな手袋を買うことにしました。
寒さが防げれば防げるほど、心も温まる

冬は帽子をかぶり、首、足首、そして手首を温めると、大分寒さを防げます。そして寒さが防げれば防げるほど、心も温まります。そのことに気づいてしまったときから、なくても生きていける手袋は、私にとってなくてはならないものになりました。

残るのは紛失対策です。次はなくしてしまわないように何か対策をしなければなりません。グローブクリップやグローブホルダーのどちらかを取り入れればいいかなと思っています。
そしてあとは、ソフトな記憶媒体であるこの新しい手袋に、いい思い出がたくさん記録されるよう祈るばかりです。
<文/小林直子>
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小林直子
ファッション・ブロガー。大手ブランドのパターンナー、大手アパレルの企画室を経て独立。現在、ファッション・レッスンなどの開催や、ブログ『誰も教えてくれなかったおしゃれのルール』などで活躍中。著書『わたし史上最高のおしゃれになる!』など。
(エディタ(Editor):dutyadmin)



