“女子力”という言葉が聞かれるようになって久しいこの頃。その内容は、美的センスといった外見的なものから、私生活など内面的なものまで多岐に渡る。
“女子力が高い女性”と聞くと、どのようなイメージを抱くだろうか。オシャレでキレイな人や、私生活がしっかりしている人…。そして料理上手といった一面もその一つではないだろうか。今回、お話を伺ったのは料理家・おもてなしプランナーとして活躍する高木ゑみ氏。そんな彼女は、新刊「考えない台所」(サンクチュアリ出版)を発表。これまでにレシピ本を刊行してきた彼女の今作は、調理方法をはじめ、献立作りや収納、片付けまでの“台所しごと”に着目した。これまでの自身の経験を活かしながら、主宰する料理教室の生徒の悩みに寄り添った今作には、女子力アップの秘訣が詰まっている。
― 料理家やおもてなしプランナーとしてご活躍中の高木さんですが、これまでのレシピ本とは作風が違う今作を出そうと思ったきっかけを教えてください。
高木氏:料理教室を主宰しているのですが、生徒さんから台所まわりに関してネガティブな言葉をよく耳にしたことがきっかけです。主婦の方やお子さんがいらっしゃる方、働いている方とさまざまなのですが、料理だけでなく、料理の献立を考える、買い物、収納、片付けと時間に追われているような印象を受けていました。「料理環境が楽しくない」といった声から「じゃあ、どうやったら楽しく料理ができるかな?」と考えたときに、「台所まわりをスムーズに、効率的に動けるようにしたらどうなるだろう?」と思いついたんです。いろいろ試してみた結果、よかったなと思うアイデアを盛り込んだ1冊になっています。料理だけでなく、買い物の仕方や後片付けのコツなど、ちょっとした工夫で忙しい人でも1時間の自由な時間を作れるよ!ということをコンセプトにしています。
◆効率の良い台所しごとで“デキる女”に
― 調理はもちろん、献立作りに買い出し、収納や片付けまでと幅広いコンテンツですね!
高木氏:献立を考えて買い物に行き、そこから下ごしらえをして、調理が始まる。それから台所まわりと冷蔵庫の収納。この一連の流れって、おそらく誰も教えてくれないことだと思うんです。この動線がしっかりしていないと効率が悪くなってしまうんですね。これらをトータルし、アイデアを提案しています。ひとり暮らしの方も新婚の方も、主婦の方にも今一度見直していただけたらと思います。
― この一連の流れの中で、高木さんが特に重要だと感じる作業は何でしょうか?
高木氏:料理をするうえで、下ごしらえは結構大事かなと思っています。料理をするとなると、野菜を洗って、皮を剥いて、切って…と一度にやり始める方が多いかと思いますが、下準備をしておくことで時間に余裕が生まれます。寝る前に、次の日の朝ごはんの支度をしておくのもおすすめです。まな板や包丁も使い方と工夫次第で、効率良く作業できますよ。例えば、白い野菜から切ってから緑の野菜を切れば、まな板を洗う回数が減り、効率が良いんです。
― 調理といった一連の流れの中に、時間を有効活用するための高木さんのアイデアが随所に散りばめられているんですね。
高木氏:簡単に出来るようなことばかりですが、生徒さんからも「ぐんと変わった」といった声が聞かれます。例えば洗い物一つにしても、方法次第で時短と節約につながります。実は洗剤って薄めながら上手に使うと、ワンプッシュで家族4人分の食器を洗えてしまうんです。小さなことですが、気持ちにもゆとりが生まれますよね。
― 段取りが大切なのですね。
高木氏:料理をするとなると、時間がかかってしまうと嫌気がさしますよね。私は、料理はとても楽しいことだと思っています。でも「しなきゃいけない」や「作らなくちゃいけない」という気持ちですと余裕がなくなってしまいます。前日に準備できることは準備しておくなど、段取りをしっかり考えたうえで少しでも先取りをしておくとスムーズに料理ができます。スムーズに事が進むと楽しくなりますし、テキパキやっている自分が“デキる”と思えて嬉しくなるんですよね。
― なるほど。楽しく取り組むことも重要ですよね。
高木氏:楽しく料理をすることって一番美味しさにつながると思うんです。私も子どもがいて、適当にさっと料理したものだとあまり食べてくれないのですが、気持ちを込めて丁寧に作ると、それを感じるのか美味しそうに食べてくれるんです。そういうところからも、気持ちの面は大切ですね。
◆「台所がせまい!」という問題を解決 収納術を伝授
― ひとり暮らしなど一口コンロで台所が狭い!といった問題を抱えた方も多くいるかと思います。そういった方に向けて効率よく出来る方法やアバイスをお願いします。
高木氏:台所のスペースが狭くても、コンロが一つでも十分に料理は出来ます。でも、やはり狭いところで料理となるとモチベーションが下がってしまいますよね。ですので、コンロまわりに物を置かないことが大切です。不必要なものを置いておくのは不衛生なんです。料理は衛生的にしたいので、コンロまわりに物を置くことは避けた方がいいです。その分、スペースが生まれますので。ひとり暮らしですと、三角コーナーもいらないかと思います。場所をとる物は極力置かず、作業スペースを広く確保し清潔にすることで楽しくスムーズで料理ができます。
― 本書では、収納についても紹介されていますね。台所まわりの収納のポイントを教えてください。
高木氏:やはり動線を意識すること。調理道具って結構スペースをとりますよね。私の友人も鍋を玄関に置いていた人がいて(笑)。理由を聞いてみると、高いところに置くのも使い勝手が悪く、ほかのスペースはいっぱいで入らないということでした。極端なことを言えば、料理はまな板と包丁と鍋があればできてしまうんです。「本当に必要なものだけ」とプチ断捨離をしてみるのもいいかもしれません。また水まわりと火まわりのものに分けて収納すると、料理をするとき動きが少なく、スムーズになりますよ。調味料は引き出しにしまい、上から見てわかりやすくするのがポイントです。
― なるほど!収納といえば、冷蔵庫の収納に関しても悩みを抱える人が多くいらっしゃるかと思います。ぜひアドバイスをお願いします。
高木氏:これまでなかなか人の冷蔵庫を見る機会はなかったのですが、今回この本を出すにあたっていろんな方の冷蔵庫の中を見させていただきました。「上手に収納されていないな」といった印象を受けたのですが、やはりみなさんの悩みのポイントなのかなと感じました。冷蔵庫の収納で大切なのは、分類し定位置を決めること。そうすることで、同じものを買ってしまったなどの無駄が防げます。また「あれ、どこ行ったんだろう」といったことも減りますよ。
― 具体的に高木さんが実践していることは?
高木氏:野菜は野菜室に立ててしまっています。縦長の野菜はペットボトルをくり抜いたものに立てていて、ほうれん草など葉野菜はブックスタンドを使い、本のように立てかけています。また使いかけの野菜を全部ひとまとめにしてトレイに入れています。そうすることで無駄なく使え、節約にもつながります。冷蔵庫は冷気を逃さないことが大切。とくにこれからの季節は食品が傷みやすいので、開けたら短時間ですぐに閉めることが肝心です。そういう意味でも、見やすく取り出しやすいことが大切です。扉に冷蔵庫カレンダーを貼っておくのもおすすめです。
◆モチベーションを上げて女子力アップ
― 参考になります。では、料理が楽しくなったり、モチベーションが上がったりするような方法を教えてください。
高木氏:料理を全くしない人でも、形から入ってみたらいいかと思います。まずは料理をしたくなるような環境を自分で整える。例えば可愛い調理道具やエプロン。台所にちょっとした緑の植物を置くだけでも気持ちが清々しくなります。それから音楽。これも重要だと思っていて、私が料理をするときはボブ・マーリーが定番です(笑)。また料理番組を再現するのも面白いですよ。料理番組のように、調味料をはかりプラスチックの容器などに入れて準備しておく。材料も切って用意しておき、よーいドンで始めるんです。「じゃあこれから料理を始めます」と、自分で遊び感覚でやってみると、面白いようにスムーズに料理が楽しめるのでおすすめです。
― 面白そうですね。
高木氏:洗い物も溜まってしまうと嫌な気持ちになりますよね。私は普段、テレビを見ながらやっていますが、CM中に終わらせるように「CMに絶対勝つぞ!」という心意気で取り組んでいます(笑)。もちろん丁寧に洗うんですけどね。くだらないかもしれませんが、楽しくやるのが私のモットー。そうやって自分で楽しみを見つけることが大切かと思います。
― ありがとうございます。ほか、本書では買い物術も紹介されていますよね。
高木氏:はい。買い物にも効率の良い方法があります。実はスーパーのレイアウトには決まりがあるんです。まず、入り口にはお店の顔となる果物のコーナー。そして野菜売り場。それから鮮魚や精肉といったようになっているんです。日用品や加工食品は店舗の中央。これを意識してカテゴリーごとにメモをして順番に回ると効率よく買い物ができ、買い忘れを防ぐことができますよ。
◆料理研究家が台所しごとに着目 一線を画する今作への思いとは
― 参考になります。幅広い内容でさまざまなアイデアが盛り込まれている今作を通して伝えたいメッセージをお聞かせください。
高木氏:料理をはじめとする台所しごとって、最初のうちはやる気があり、楽しめると思うんです。女の子は幼いころからおままごと遊びをして育ってきた方が多いと思うので、嫌いじゃないはずなんです。でも、やっているうちに日常になると面倒くさくなってきてしまう。そして面倒くさいが重なると嫌いになってしまうんです。でも、とにかく楽しんだもの勝ち!私自身も母親なのですが、とくに子どもを持つと、料理や台所しごとに対して憂鬱になってしまう方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。でも、それを変えるのは自分次第。いかに自分が楽しく料理をするかということは自分にかかっていることですので、ぜひ参考にしていただきたいです。効率よくスムーズに動けると、気持ちにも余裕ができて、料理が楽しく、美味しくなるというのが私の考えです。本の帯にもありますが、無駄な時間を省き1時間の時間を作るというのもこの本のコンセプトなので、その時間を自分磨きの時間に充ててもらえたり、イライラやストレスから解き放ったりしてもらえれば嬉しいです。もちろん多くの方に読んでいただきたいのですが、ぜひ台所しごとに対してネガティブなイメージをお持ちの方に手にとってもらいたいですね。この本をきっかけに「料理がしたい」「掃除しなきゃ」と思ってもらえると幸いです。
― 読み終えた後には、ポジティブになり女子力も急上昇しそうですね!
高木氏:料理教室の生徒さんの悩みや、アンケート参考にみなさんの悩みに寄り添いました。悩みや失敗談を盛り込んでいるので共感いただけるかと思います。きっと、みなさんが知りたいことや、「なるほど、これならすぐ出来る!」というようなプチアイデアも紹介しているので、参考にしてもらえたら嬉しいです。私自身、料理教室の生徒さんも変わったなという印象を受けています。料理がすごく上手というわけでなくても、何よりもご本人がとても楽しそうなんです。それは1番大切なこと。やはり美味しい料理は愛情が一番の調味料です。私はそう信じています。
― ありがとうございました。
簡単ながらも目からウロコのテクニックの数々を教えてくれた高木氏。新刊「考えない台所」は高木のアイデアが盛り込まれた、現代を生きる忙しい女性たちに贈る一冊となっている。高木氏が「明るい自分を取り戻して欲しい」と願いを込めた、これまでに類を見ない指南書は、女子力向上をサポートしてくれるはずだ。
■高木ゑみ(たかぎ・えみ)プロフィール
料理家・おもてなしプランナー。慶應義塾大学卒業。イギリス、オーストリア、アメリカへの留学をきっかけに世界各国の料理に出合い、料理の道に進む。数々の厨房で修業を積んだのち、エコール辻東京イタリア・フランスマスターカレッジを卒業。中目黒にて料理教室を主宰する。生徒数は800人を超え、現在予約のとれない教室となっている。また、企業向けレシピ開発や出張料理、離乳食講座も請け負っている。(エディタ(Editor):dutyadmin)

