人間関係が苦手、すぐに傷ついてしまう。繊細なタイプが増えている令和時代。裏を返せば、人とうまく関わりたいという切なる願いのあらわれではないでしょうか。
人間関係がうまくいく、とっておきの秘密
『聴きポジのススメ』は、「聴く」ポジションで無理なく愛されるレッスン本です。
著者はフリーアナウンサーの堀井美香さん。「大事な人との関係は、聴くことから始まる」と語る堀井さんは、元TBSアナウンサーで、歴27年以上のベテラン。
会話には話し手と聴き手が存在しますが、一見して聴き手は地味なイメージですよね。しかし堀井さんの見解は違います。「話を盛り上げようと焦ったり、分かりやすく話そうとがんばったりせず、会話そのものを楽しめる」、これが聴きポジ。
聴きポジに回れば、場の主導権をこっそりと握ることもできますし、話し手には心地よさを提供できます。陰の主役ともいえる聴きポジ、人間関係が円滑に進むコツ、教えてもらいませんか。
「聴いてあげる」はNG
聴きポジの極意は「相手の話を心で受け止めるか。寄り添い、相手の言葉を引き出す」。その結果「この人はわかってくれる」「心地いい、落ち着く」など、相手によい印象を与えるのです。
人というのは不思議なもので、態度や仕草でその人の心根がにじみ出てしまいます。たとえばあなたが「聴いてあげる」という姿勢で相手に向き合ったら、どことなく高圧的な印象を与えてしまうかも。
本書による聴きポジの心構えは「教えてもらう」。「『私の知らないことを教えてください』という気持ちで対面することで、聴きたいことも泉のようにわいてくるのです」と本書が示唆するように、一歩下がった謙虚さが好感度につながるのでしょう。
さらに「ウソの好奇心」を捨てるのも大事だといいます。やはり人というのは、「興味のあるフリをしている」「真心がこもっていない」などのリアクションは本能的にわかるのですよね。反対に、ただ黙って頷き合うだけでも心が通じる瞬間があります。
大切なのは濁りのない心。「自分はこの人のことが大好きで、ひとつでも多くのことを知りたい」と純粋に願う気持ちだと本書は説いています。
とはいえ、仕事上で苦手な人と対峙(たいじ)しなくてはならない時もあります。本書いわく「はじめは自己暗示でも構いません」。やがて相手のいいところが見えてきたらしめたもの。相手のいいところにスポットをあてれば、もっと相手を知ってみたい、尊重してみたいという思いも生まれるのではないでしょうか。
相づちの名手になろう
「よい聴き手になるうえで欠かせないスキルが、『相づち』」と本書。普段何気なく使っている相づちですが、本書による相づちの本質は「相手をどこかに連れていく」。あなたの相づちひとつで、会話をふくらませたり誘ったりできるというのです。
本書が考える相づちは以下の3つ。
1 共感する相づち
「うんうん」「わかるわかる」「なるほど!」「ほんと、そうですよねえ」等、肯定の意思を伝える言葉。「話を聴いていますよ」というメッセージが込められているので、相手に安心感を与えそうですよね。
2 問う相づち
「いつ/どこで/何を/だれと/どのように」で話を具体的にしていきます。「なぜそれをしたのか/なぜそう考えたのか」と理由を聞いていくと相手の人間性をより深く掘り下げられます。共感する相づちをクッションとして挟めば、スムーズに会話が進むでしょう。
3 深める相づち
これをマスターすればあなたも聴きポジ上級者。会話の視点をちょっと変えるだけで、相手の新たな魅力を引き出せるのです。それをやってのけたのがジェーン・スーさん。ポッドキャスト番組の素材を一部抜粋しますね。
サクちゃん(桜林直子さん)「最初の1回だけ対面でカフェでお話しして、その後からずっとzoom」
スー(ジェーン・スーさん)「で、もうすぐ延べ1000人?」
サクちゃん「そうねえ」
スー「あなたは、はじめるとなかなか続く人ね」
ジェーン・スーさんは、「1000人」というキャッチーな数字に注目したのではなく、「はじめるとなかなか続く人」とサクちゃんの人間性をすくいあげました。ここから会話は「続ける美学」へと発展したそうです。「1000人」というわかりやすい数字だけを拾うのも悪くはありませんが、「すごいね!」という単純な盛り上がりで終わってしまったかもしれません。
いかがでしょうか。さりげなく相手の良さを讃えつつ、知的な会話へと舵取りをしていく。聴きポジは、まさに陰の立役者なのです。
身体全部で聴きポジを表現
「会話は言葉で交わされるものですが、コミュニケーションは身体全体で行うものです」。本書の一文にハッとしたのは、私だけではないでしょう。この人、私の話を真剣に聞いていない、と感じるのは、言葉尻だけではなく動作や仕草がもとになっているからです。
よく「目が泳いでいる」と言うように、目にはその人の心の動きがあらわれます。本書でも「まっすぐに目を見る」「話を聞く時に体を逸らさない」のが、「話を聴いていること」の合図になっていると確信しています。

基本は「目」ですが、何もメイクに凝ったり、目力をアピールしなくてもいいのです。相手に「教えてもらう」という謙虚さと、「ウソの好奇心」ではなく相手に対する「純粋な好奇心」がベースになっていれば、自ずと目は輝くはず。そのうえで、身体ごとしっかりと相手に向ければOK。きっと相手は、時間を忘れるほどあなたとの会話に夢中になるのではないでしょうか。
本書には、聴くための声の育て方は声のアンチエイジングなど、大人ならではの魅力につながるレッスンがいっぱい。巻末には『聞く力』の著者、阿川佐和子さんとの対談も収録されています。「聴きポジ」は、仕事でもプライベートでも愛される秘訣なのです。
<文/森美樹>
森美樹
1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx
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