グレイヘアのベリーショートにカラフルなシャツ。やさしくほほえむスタイリッシュな女性こそ、世界最高齢のアプリ開発者である若宮正子さん。
2017年にゲームアプリ「hinadan(ひな壇)」を公開し、現在もICTエバンジェリストとして活躍しています。『昨日までと違う自分になる』(KADOKAWA)は、「88歳でも発展途上」な若宮さんのポジティブ人生が詰まった一冊。
ちなみにICTエバンジェリストとは、高度で複雑なIT技術やトレンドをわかりやすくユーザーに伝える職種のこと。
エクセルと手芸を融合させた「エクセルアート」を創始し、デジタルクリエーター、NPO法人ブロードバンドスクール協会理事など、今なお進化を遂げる若宮さん、88歳。その原動力の秘密を、ちょっとのぞいてみませんか。
若宮さんは1935年生まれ。大東亜戦争(太平洋戦争)が始まったのは1941年(昭和16年)ですから、若宮さんは6歳でした。やがて怒涛の日々に突入するわけですが、戦争、終戦とコロコロ変わる世の中に「付き合っていられない!」と半ばあきれたそうです。
これが小学4年生の率直な思いというのだから、驚きです。「何も信用できない時代に育ったんですもの、付き合っていられないんですよ」と当時を振り返ります。幼い体験が、独自路線を貫くベースになったのかもしれませんね。

戦前、戦時中、戦後と、価値観が大幅に変わり続けた日本で、多感な日々を過ごした若宮さんが培ったのは、「どんどん変わる世の中の価値観に惑わされない」こと。確かに、ブランド品の爆買いが流行ったかと思えば、ミニマリストがもてはやされたり、令和時代の今でも価値観は瞬時に変わっています。どれが良いとか悪いとかではないのです。
優先すべきは自分がどうしたいか、どうすべきなのか。「自分のやりたいことからやっていこうと思うようになりました」と若宮さんが言うように、世間の声ではなく自分の声を聞いて、忠実に行動するのが後悔のない生き方につながるのではないでしょうか。
2017年にゲームアプリ「hinadan(ひな壇)」を公開し、現在もICTエバンジェリストとして活躍しています。『昨日までと違う自分になる』(KADOKAWA)は、「88歳でも発展途上」な若宮さんのポジティブ人生が詰まった一冊。
高齢者向けのゲームがないから作ってみた
ちなみにICTエバンジェリストとは、高度で複雑なIT技術やトレンドをわかりやすくユーザーに伝える職種のこと。
エクセルと手芸を融合させた「エクセルアート」を創始し、デジタルクリエーター、NPO法人ブロードバンドスクール協会理事など、今なお進化を遂げる若宮さん、88歳。その原動力の秘密を、ちょっとのぞいてみませんか。
何も信用できない時代に育って
若宮さんは1935年生まれ。大東亜戦争(太平洋戦争)が始まったのは1941年(昭和16年)ですから、若宮さんは6歳でした。やがて怒涛の日々に突入するわけですが、戦争、終戦とコロコロ変わる世の中に「付き合っていられない!」と半ばあきれたそうです。
これが小学4年生の率直な思いというのだから、驚きです。「何も信用できない時代に育ったんですもの、付き合っていられないんですよ」と当時を振り返ります。幼い体験が、独自路線を貫くベースになったのかもしれませんね。

戦前、戦時中、戦後と、価値観が大幅に変わり続けた日本で、多感な日々を過ごした若宮さんが培ったのは、「どんどん変わる世の中の価値観に惑わされない」こと。確かに、ブランド品の爆買いが流行ったかと思えば、ミニマリストがもてはやされたり、令和時代の今でも価値観は瞬時に変わっています。どれが良いとか悪いとかではないのです。
優先すべきは自分がどうしたいか、どうすべきなのか。「自分のやりたいことからやっていこうと思うようになりました」と若宮さんが言うように、世間の声ではなく自分の声を聞いて、忠実に行動するのが後悔のない生き方につながるのではないでしょうか。
70代は伸び盛り
若宮さんは「メロウ倶楽部」の理事もつとめています。シニア世代(円熟世代)の生きがい作り、社会貢献を目指した一般社団法人です。シニア世代が中心だからといっても、老化防止や認知症予防のためではありません。若宮さんいわく「70代はまだまだ元気」ではなく「70代は伸び盛り」。
本書を読んでいると、自分の可能性を狭めているのは自分自身ではないかと気づかされます。それはSNSを筆頭とする過多な情報と関連づいているようです。
本書によると厚生労働省ですら「年寄りが活躍する社会とか、そういう新しい考え方にはまだまだ馴染んでいませんね」というのです。「学者の先生方でも、年寄りが学んで成長するとは、あまり考えておられないようです」とのこと。88歳で今なお飛躍をしている若宮さんの発言は、シニア世代だけではなく、あらゆる世代の励みになるのではないでしょうか。
「メロウ倶楽部では昨日できなかったことが今日できるようになるんです」と若宮さん。できたことの積み重ねが心身をパワーアップさせるのです。もう年だから、若くないから。そんなのは思い込みと固定観念に過ぎず、私達はいくつになっても可能性を掘り起こせるのです。
インターネットで弱者がつながる
1990年代にインターネットが登場してから、オンラインでの交流が急速に広がりました。コロナ禍を経て、インターネットでの交流はいっそう顕著(けんちょ)になり、役立つようにもなりました。
たとえば何らかの理由で外出できない方、目や耳が不自由になった方でも、容易に意思疎通ができます。「そういう意味でもウェルビーイングが向上しているのかもしれません」と若宮さんが感心するように、一般的に弱者と呼ばれている方々が活躍しやすくなったのです。
そして若宮さんご自身も、インターネットをきっかけに奇跡を起こしたひとり。若宮さんのさらなる飛躍につながる出来事が、アメリカからやってくるのです。
アップルから突然のメール

81歳でゲームアプリ「hinadan」を作ったら、「世界最高齢の開発者」としてその年の米国アップル社の世界開発者会議「WWDC2017」に特別招待されたのです。
ある日突然アップルからメールがきたら、若宮さんでなくとも驚愕しますよね。恐る恐るメールをひらけば「どうしても会いたいと言っておられる方がいる」とあって、それがCEOのティム・クックだと判明したのですから、まさにインターネットアメリカンドリーム!
「高齢者が楽しめるアプリがなかったから、誰も作ってくれないなら仕方ないから自分で作ろう」と、若宮さんは独自の見解で開発に踏み切りました。超高齢化社会とうたわれつつも、高齢者向けのアプリが少ないというのもおかしな話です。高齢者はITになじみがない、ゲームなどやらない、という先入観がまことしやかに蔓延(はびこ)っているのでしょう。
私はアラフィフですが、88歳の若宮さんと比較すればまだ若いです。でも、年々世間から取り残されていく不安に苛まれます。世の中という得体の知れないモンスターが、若い方を中心とした流行や情報を垂れ流しにするからかもしれません。人生100年時代、アラフィフなどまだ折り返し地点です。年齢など無関係に、オリジナルな生き方をひとりひとりが模索していくべきなのです。
コピペな生き方にさようなら
「年を重ねるといろんなことを諦めてしまう人が多いですね」とは、ちょっと耳に痛い発言です。でもズバリ言い当てていますよね。やはり私と同じく「50代くらいで人生を諦めておられる方もいらっしゃいますが」というのも事実です。インターネットの良い面だけを活用すればいいのですが、SNSなどの正体不明の情報を気にしすぎると、あらゆることに尻込みしてしまうのでしょう。
「コピペは駄目ね。コピペじゃない生き方をしたいです」。この発言も胸に染みます。みんなと一緒じゃなくていい、あなたはあなた、私は私です。
それぞれが個性を生かして独自路線の幸せを歩めば、毎日はきっと奇跡で満ちてくる。本書を読み、そんな風に思いました。
<文/森美樹>
森美樹
1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx
(エディタ(Editor):dutyadmin)



