2020年に戸田恵梨香と結婚した松坂桃李は、俳優としても夫としても完璧だと思う。
2023年5月には第一子が誕生。松坂は父にもなった。ところが主演配信作『離婚しようよ』(Netflix)はどうだろう。おめでたな実生活とはあまりにギャップがある。
「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、家庭生活とかけ離れた役柄をむしろ“お家芸”として演じる松坂桃李に迫る。
エレガントな俳優夫婦日和
2023年の夏は連日、記録的な猛暑日が続いている。初夏であるはずの6月初旬頃からシャツがべっとりする暑さだったが、そこへ何とも涼やかな風景を提供してくれた俳優夫婦がいる。
2020年に結婚した戸田恵梨香と松坂桃李夫妻だ。ふたりが繰り出し、目撃されたのは、六本木のとあるカフェ。テラス席の入口にたたずみ、サングラス姿からは汗ひとつ流れていないように見える。
エレガントである。この日はふたりだけでなく、ベビーカーに乗せた生後1ヶ月の愛し子もいる。子どもと過ごす夏の休日日和は、ハリウッドスターさながらにイケている。
夫・松坂桃李の最新主演作品
第一子が生まれた喜びを松坂はTwitter(現在のX)でこう伝えた。
「この子がくれる沢山の初めてを、夫婦で共有し、支え合っていければと思っております」
5月に生まれ、6月のカフェ出没を週刊誌『FLASH』にキャッチされるまでの1ヶ月間、この夫婦はいったい、どれだけの「初めて」を体験し「この子」からどれだけの福音がもたらされただろう。そして夫婦関係にはどのような喜ばしい化学反応が生じているだろう。
そんな夫妻のことを考えていて思うことがある。夫・松坂桃李の最新主演作品のことだ。よりによってなぜ彼は、ある夫婦の倦怠と泥沼な離婚を描くドラマ『離婚しようよ』に主演したのか。
現実とは打って変わる役柄
『離婚しようよ』は、大物政治家だった父親から地盤を引き継いだ二世議員の東海林大志(松坂桃李)と人気女優の黒澤ゆい(仲里依紗)夫婦が主人公。
ゆいのライブ配信で夫婦揃っておしどりぶりを演じるが、配信ボタンを切った途端に、底冷えする日常の空気が流れる。
失言、読み違い、プチ不倫など、不祥事まみれの大志は、支持率を維持するためにどうしてもゆいの力を必要とする。CM広告契約やイメージを守りたいゆいは政治家の妻としての役目もいやいや全うする。
愛し子をベビーカーに乗せていた現実の松坂とは打って変わる役柄だ。妻役の仲だって、2013年に俳優の中尾明慶と結婚していて、今年で夫婦生活10周年を迎えている。なのにそんなふたりがドラマの世界だとこんな悲惨な夫婦関係を演じているのだ。
身近に引き寄せる力技
俳優とは自分に似た役柄を演じることもあるが、そうではないときの方が圧倒的に多いかもしれない。本作の大志役を考えると、これは松坂にとってある意味では似てもいるし、また同時に似てないとも言える役柄なのだと思う。
と言うのも、有力な地盤を引く大志はエリート議員だが、松坂のキャリアもエリートな俳優道をひた走ってきたところがある。2009年のデビュー以来、とにかく主演作品を連打してきた輝かしさを思い起こす。
一方で主演だけでなく助演作にも自主的に出演しようとする姿勢が他の俳優にはあまり見られない唯一無二の魅力でもある。ダメダメ議員ながら、どんな恥を忍んででも地元での政治活動には粉骨砕身になる大志の直向きさとどこか似ている気がする。
夫としてはもちろん松坂の方が完璧に違いない。だから全体として似ているわけではないが、まったく遠い存在であるはずの大志役を見事に身近に引き寄せる力技は松坂にしかできない。
松坂桃李の“お家芸”
本作を見ていてこれは特にうまいなと思った場面がある。ドラマ撮影から帰宅したゆいが、ソファでぐでぐで寝ている大志を叩き起こす。靴下やらパンツやら、すべて脱ぎっぱなしの大志を叱責しまくる。
寝起きでまどろむ大志が目をとろんとさせてあわあわする。リアリティ、リズム感、間合い。松坂は完璧に演じこむ。このリアルさを見ると、もしかして実生活でも戸田恵梨香にこんな風に叱られることがあるのかなと思わず想像してしまう。
ドラマと現実を行き来する松坂桃李の“お家芸”がここにある。
<文/加賀谷健>
(エディタ(Editor):dutyadmin)
