30代男女のセックスレスと禁断の恋愛を描いたドラマ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、木曜よる10時~)が残すところあと1話。話題の作品を、夫婦関係や不倫について著書多数の亀山早苗さんが読み解きます(以下、亀山さんの寄稿)。
【前回記事】⇒セックスレスに悩み続けた妻。ついに離婚を切り出した理由は“レス”ではなかった|ドラマ『あなたがしてくれなくても』
誠と楓それぞれに「そんなはずではなかった」展開が
そして離婚して仕事に邁進しようとした楓にも、「そんなはずではなかった」ということが起こる。人生、思い通りにはいきそうにない。
みちはようやく、陽一の母親役を卒業できた
陽一と誠が直接対決するシーンもあった。落ち着いて「みちさんの気持ちを考えたことがありますか」と言う誠に対し、陽一は終始、必死に突っ張って上から目線を貫こうとする。だが誠が帰ったあと、コーヒーカップを片づけようとした陽一の手はひどく震えていた。彼はいつもそうやって見栄を張って、自分を大きく見せようとしてきたのだ。それをしなくていい唯一の相手がみちだったのだろう。

ようやくみちの目の前で離婚届を書いた陽一だが、彼はおそらくどうして離婚ということになったのか、きちんと納得はしていない。ただ、自分と結婚したために無駄な時間を過ごさせてしまったと妻に謝ることはできた。涙をこらえるみちに、「そんなことないよって言わないの?」と言う陽一は、以前より成長したように見える。みちは答えることなく、「陽ちゃん、ちゃんとごはん食べてね」と言った。みちは、夫の母親役を卒業することができたのだ。
「わかろうとするから夫婦でいられる」
新名家では、「楓を支えたくて結婚したのに、自分が変わってしまった」と誠が楓に謝っていた。楓は「謝らないで。誰も悪くないんだよ」と言う。
DVや借金などがからんでいないのであれば、離婚は確かに誰も悪くない。生活していく中でお互いの気持ちに変化が生じることもあるし、理解し合えない部分が広がっていくこともある。奇しくも陽一が店長を務める喫茶店のオーナーがこう言っていた。

「夫婦なんてわかりあえないもの、わかろうとするから夫婦でいられる」
つまりは理解しようと思えなくなったとき、夫婦の関係は希薄になっていくのだろう。
ようやく自分の人生に目覚めたみち
みちが、誠の思いに応えられないと告げる伏線はあった。仕事をしながら昇進試験の勉強を必死でしているとき、彼女は今までにない充実感がある表情になっていた。ひとりで生きることへの手応えを感じているように見えた。

そして試験に合格しなかったものの、「来年は必ず合格する」と悔しさをバネにすると、勉強を教えてくれた誠に誓った。
そのとき誠は、「来年はもっとしごくから」と冗談交じりに言うのだが、みちは表情を曇らせて「なんか……怖いな」とつぶやいた。もともと上司と部下の関係だ。みちは「パートナー」としての誠に不安を覚えたのではないだろうか。
10話を通して伝わってきたメッセージ
結婚生活で悩みを抱えたとき、誠が同じ苦悩を覚えていると知り、ふたりは“戦友”となった。そして互いの気持ちがわかりながらも、不倫に突っ走ることはなく、それぞれが自分の結婚生活をきちんと解消した。そしてひとりになったとき、みちは夫から誠に「乗り換える」のが目的ではなかったと気づいたのではないだろうか。まずは自分の足で立つ。陽一の「おかあさん」役だったみちが、自分の人生に目覚めたように見えた。

いい妻、夫の気持ちをわかろうとする妻ほど、自分の人生が見えなくなってしまうのかもしれない。それは妻を支えようと思っていた誠にも言えることだ。夫に尽くす専業主婦の母を見て育った誠は、バリバリ仕事をする楓を好きになって結婚した。妻の父であり母であることを志した結果、自分を見失ってしまったのではないだろうか。
このドラマ、セックスレスや不倫をテーマにしてきた物語ではあったが、10話で帰結したのは「自分自身を大事に生きる」ことだった。もちろん、現実にもこういったケースは多い。
離婚したとたん不倫も解消
ドラマを地でいったのは、ユカリさん(仮名・41歳)だ。30歳のときつきあいの長い同い年の彼と結婚。共働きでひとり娘を育ててきたが、娘が小学校に上がった4年前、部署に異動してきた5歳年下の男性と恋に落ちた。
「恋に落ちたことで、私が結婚生活で抱えている問題が大きくなっていったんです。夫は家事も育児もほとんどしない。夫に何か言うと百倍くらいになって返ってくるから、文句も言わずにワンオペでがんばってきた。でも夫は機嫌がいいときは娘をかわいがるから、娘から父親をとりあげてはいけないと我慢してきたんです」

写真はイメージです(以下同じ)
「あのときは娘のことさえ考えられなかった。もちろん日常生活も仕事もなんとか送っていましたが、頭にあるのは彼のことだけ。彼が別の女性社員と話しているのを見るだけで、嫉妬で体が熱くなってしまう。完全に恋にやられていました」
ふたりの熱を冷めさせた「上司の言葉」
半年ほどたったころ、同じ会社の別の部署にいる彼の妻が夫の不倫に気づいた。妻は夫の上司に相談する。ユカリさんと彼は上司に呼ばれ、「今なら間に合う。家庭も会社も」と言われた。そこまで言われたら、社会人としてはさすがに恋の熱が一気に冷えてしまうものだ。
「彼はビビりまくって『別れよう。僕は異動願いを出す』と。でも私は納得できなくて、彼の自宅の周りをうろうろしたりして、彼の奥さんに警察を呼ばれたりもしました」

どうしてあそこまで必死になって彼を求めていたのか、今となってはわからないとユカリさんは苦笑する。
「自分が離婚すれば彼と会える時間を確保できる。そう思って、突然、夫に離婚を切り出しました。夫は『ひとりでやれるものなら、やってみれば』と家を出て行きました。もともと私や娘には愛情がなかったんでしょう」
夫が出て行ったとたん、彼女から「彼を求める気持ち」が薄れていった。自分でも不思議なほど気持ちが落ち着いた。
不倫があろうがなかろうが、結婚生活は破綻していた
「彼からは、ときどき『大丈夫?』という連絡がありましたが、それに返事もせず、仕事に没頭しました。ちょうどコロナ禍になって家で仕事をすることも増え、ひとりになる時間もあったので自分を見つめ直すのにちょうどよかったのかもしれません」
夫とは学生時代からの友人だった。卒業して4年たって再会し、なんとなくつきあってなんとなく結婚してしまったと振り返った。夫が「ひとり暮らしに飽きていたし、家の中が片付かないから結婚した」と話していたと友人から聞いたのは、結婚してしばらくたってからだ。知っていれば結婚しなかったのにと悔しい思いをしたとき、彼女はすでに妊娠していた。
年下彼との不倫の一件があろうがなかろうが、結婚生活は破綻していたのだ。
私は私の人生をまずやり直してみようと思った
「娘とのふたり暮らしはけっこううまくいっていたし、何より私は夫の世話から解放され、自分の恋心にも苦しまなくなった。今の状況がいちばんいいんじゃないか、私は私の人生をまずやり直してみようと思ったんです」
半年後、部署を異動した年下彼から、「うちも結局、うまくいかずに離婚することになった。あなたとやり直したい」と連絡が来た。だがそのとき、ユカリさんの頭の中から、彼のことはすっかり消えていた。
「恋の情熱に浮かれていただけ。本当に熱病みたいな感じでした。彼にはもう私は自分の人生を歩み始めたからと言うしかなかった」
我慢しないで、自分中心に生きる心地よさ
人生のパートナーがほしいとは今は思っていない。困ったときに相談できる女友だちがいるし、愛情は娘からたっぷりもらっている。
「なんだかいろいろあったここ数年ですが、今はこれでよかったと思っています。何より我慢しなくても生きていける、自分中心に生きるのは心地いいとわかったから」
次は、情熱的な恋ではなく、お互いを思いやれるような穏やかな恋をしてみたいけどと彼女はちょっと笑いながら言った。
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第11話より(以下同じ)
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<文/亀山早苗>
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亀山早苗
フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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