言った言わないの水掛け論…悪いのは相手ではなく、脳のしくみだった!?【脳科学者が解説】

時刻(time):2023-06-17 20:27源泉(Origin):δ֪ 著者(author):kangli
思い違い? 勘違い? 情報の書き換えが起こりやすい「エピソード記憶」とは 記憶にはいろいろな種類があり、とくに言葉に言い表すことのできる形の記憶を「陳述記憶」と言います。さらに「陳述記憶」は、「エピソード記憶」と「意味記憶」に分けられます。 エピソード記憶は、主に「自分が体験した出来事に関する記憶」です。何をしたかという出来事の内容に加え

思い違い? 勘違い? 情報の書き換えが起こりやすい「エピソード記憶」とは

記憶にはいろいろな種類があり、とくに言葉に言い表すことのできる形の記憶を「陳述記憶」と言います。さらに「陳述記憶」は、「エピソード記憶」と「意味記憶」に分けられます。

エピソード記憶は、主に「自分が体験した出来事に関する記憶」です。何をしたかという出来事の内容に加え、日時や場所などの付随情報や、その体験による感情も含めて記憶されることが最大の特徴です。「昨日家族と温泉旅行に出かけて楽しかった」といった思い出は、まさにエピソード記憶の典型例です。

一方の意味記憶は、自分に直接関係のない事柄の記憶です。たとえば、日本全国の都道府県名をすべて丸暗記しているとか、掛け算の九九を暗記しているといった、いわゆる「知識」に相当します。

意味記憶と比べ、エピソード記憶(思い出)は、自分に直接関係したことで、時間情報・場所情報・感情体験を伴っていますので、あまり意識しなくても頭に残りやすいですし、かつ思い出しやすいという特徴があります。

人に聞かれなくても、知ってもらいたくなって、何度も思い出して話している内容は、ほぼ100%エピソード記憶でしょう。学校で習って覚えた知識を披露するという場合も、意味記憶を引き出しているというよりは、「こんなことを習って面白かったよ」という体験を人に共有してほしくて話しているわけですから、これもエピソード記憶です。

ただ、思い出しやすいというのは、エピソード記憶の長所でありながら、欠点とも言えます。なぜなら、思い出すたびに知らず知らずのうちに「情報の書き換え」が起きてしまうからです。


思い出すたびに変わっていく記憶……水掛け論の原因になることも

コンピューターの記憶装置からデータを引き出すときは、ファイルを開いて必要なデータを参照した後に、そのファイルを閉じれば、元のデータは変わらずそのまま残ります。

しかし、私たちの記憶の場合は、思い出すたびに、元の情報が欠けたり新しい話が加わったりして、何かしら違うものになります。なぜなら、いつ誰に話したかということが記憶されていくと同時に、そのときに話した内容も新しい記憶として「上書き」されていくからです。

言い換えれば、思い出すことは、実は元の記憶を少しずつ壊すことに他なりません。ちょうど「伝言ゲーム」のように、繰り返しているうちに、元とは全然違う話にすり替わってしまうこともあるのです。

一昔前のテレビのワイドショーなどでは、定番ネタとして「嫁と姑の喧嘩」がよく取り上げられていました。嫁は「姑が嫌がらせばかりする」と言い、姑は「嫁からひどい仕打ちを受けている」と言う。証言内容が真逆で、どちらが被害者なのかわかりません。

どちらかがウソをついているという場合もあるでしょうが、ここでは両者とも本当のことをちゃんと話している(つもり)としましょう。

おそらく毎日同じ屋根の下で暮らすうちに嫁も姑もお互いの嫌なところばかりが目に付くようになり、それを振り返っては人に話すたびに、それぞれの解釈で記憶がひずんでいき、上書きされていったのでしょう。

当人たちは、記憶が作り替えられていることに気づかず、自分の方が正しいと信じ切っているので、いつまでたっても平行線をたどることになってしまいます。

みなさんも、家庭や職場で「言った、言わない」で揉めることがありませんか? それらもみんな、体験を何度も思い出すうちに、最初の事実と違うように「上書き」されてしまったためかもしれません。


認知症の初期段階の昔話の正確性は? 多くは正しいと考えられる理由

認知症の初期段階では、「新しいことを覚えることができない」というタイプの記憶障害が起こるため、ついさっき食事をしたばかりなのにその覚えがないといったように、普通なら記憶に残っているはずの最近の出来事の記憶がないという状態になります。

しかし、昔の記憶はきちんと残っており、長年思い出すことのなかったエピソードを突然話すようになる方もいらっしゃいます。

認知症の方がお話しされる内容は、「事実ではないだろう」と捉えられがちですが、実は逆です。むしろ、きわめて正しい情報であることが多いのです。

健常な方であれば、上述したように、何度も同じ話を思い出しては話すうちに、話が真逆にすり替わってしまうこともありますが、長年思い出すこともなく脳のどこかに保存されていた情報は、まったくの手つかずで、当時のまま残されていたわけです。

おそらく、日々の忙しい暮らしの中で、次々と新たに起こる出来事が優先されて、昔の何気ない記憶というのは思い起こされることなく埋もれていたのでしょう。それが、新しい記憶が獲得できなくなった状態で、突如「再発見」されて口から出てきたのですから、それは紛れもない事実に違いありません。

おまけに、記憶力が正常であれば、思い出すたびに新たな情報が加わるなどして「上書き」されてしまいますが、認知症の方の場合はそれが起こりません。思い出して話したとしても、そのこと自体を覚えられないからです。

法律上の扱いなどでも、認知症の方が語る内容には信頼性がないと一般に考えられているようですが、とくに昔の思い出話については、上書きされていない分、真実に近いことが多いということも理解しておく必要があるのではないでしょうか。

人間の脳の記憶って、不思議ですね。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。


執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)
(エディタ(Editor):dutyadmin)
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