
幸食のすゝめ#080、だしとワインの出会いには幸いが住む、横浜。
「このワイン、いったい何なんだろう?」、口に入れた途端に衝撃に包まれた。「複雑で、白ワインとは思えないしっかりした味わい、それでいて喉に引っかかる感じがまるでなくて、スーッと入っていき、そのまま身体に染み渡っていく…」。
2014年の夏、岡田(邦晴)さんが訪れた北イタリアのモデナにある『オステリア・フランチェスカーナ』での出来事だった。
バルサミコとフェラーリで有名な街にある小さな店は、世界で最も予約が取れないレストランのひとつだ。

料理は『オステリア・フランチェスカーナ』の定番、「パルミジャーノの5変化」だった。白いひと皿に、熟成日数が違う5種類のパルミジャーノ・レッジャーノを5種類の調理法で盛り合わせたシェフ、マッシモ・ボットゥーラの得意料理。
濃厚なのに、サッパリしている。おいしさのパラドックスを、舌の上で1つにまとめたのは『ダミアン』の深い味わいだった。「これなら和食のだしにも、きっと合うに違いない」、北イタリアの静かな旧市街で、その時、『おか田』の物語が始まった。

ローマにいた3年間に、運命を決定づける『ダミアン』と出会う。
「それからしばらくは、フリウリ地方のワインを次から次へと飲み漁りました。飲めば飲むほど、和食に合わせたいという気持ちが盛り上がって来て、料理のアイデアが浮かんで来たんです」。
そして、2018年2月、横浜に自身の店を開いた。

「ますます自分の想いを実現したくなったし、今の日本だからこそやる意味があると思いました」。

店では、様々なボトルワインのほか、グラスワインも豊富に用意されている。
和食のだしと自然派ワインの幸福な出会いが、かつての文明開化の地、横浜からスタートした。

多数の自然派イタリアンワインをストックする『Però』と、『ダミアン』から始まった『おか田』の出会い。ソムリエ森田雅人さんのペアリングの妙に、岡田さんの熟練の知と技が限りなく飛翔する。

白ワインでありながら、分かりやすい果実味より、鉱物と塩気と果実が混在した味わいと香りが、甲殻類の持つポテンシャルを最大限に引き出しながらも、すっきりとまとめる。

一般的に唐揚げで食べられることが多い人気の深海魚を、開いて一夜干しにすることでさらにうまみを引き出し、鯛の酒盗でうまみを重ね、根三つ葉の青い清涼感でまとめ上げる。
そこに『ダリオ プリンチッチ』の心地よい渋みが目光の脂を切り、その先に押し寄せる類い稀なる甘い官能に抱かれる。
その日、小さなコの字カウンターを囲んだ全員が息を飲んだペアリングだ。

昔のおでん屋さんみたいに、同じ料理、同じ酒を囲みながら知らないお客さん同士が触れ合える場所。そのためには、大き過ぎない面積と距離感が大切だった。客の一人ひとりに目が届く席数も重要だ、客からも料理人の一挙一動が見渡せてライブ感が伝わる。

昼から店が開く日曜日には窓越しに公園のまどろみが伝わり、子どもたちの遊ぶ様子が見える。
食材の持つ力を信じて活かし切り、繊細に仕立てられた旬の和食と、自然の力そのもののワイン。
しなやかに力強く、和食の新しい地平が生まれた。
ペアリングを越えた、だし割りの背徳

そこに『ラディコン』 、「リボッラ2003」の芳醇な酸味が重なる時、すべての味覚が舌の上で1つに融合していく。

贅沢過ぎる土瓶蒸しに合わせて、グラスが陶器のぐい呑みに変わる、注がれるワインは再び『ラディコン』。今度はフリウラーノで作られる貴重な白、「ヤーコット2006」だ。こともあろうにソムリエの雅人さんは、途中から「ヤーコット」のだし割りを提案する。赤羽なら、清酒ワンカップのおでんだし割りはお馴染みだが、まさかの『ラディコン』だ。
背徳感に包まれながら口に運ぶと、だしとワイン、松茸の香り、濃厚なクエ、秘かに香る甲殻類が幾重にも押し寄せて来る。
だしのドラマを加速する、自然派ワインの力



そして、クライマックス。岡田さんの運命のワイン、『ダミアン』の「ネカイ2012」がデザート「栗渋皮煮とマスカルポーネ」に合わせて注がれる。栗とマスカルポーネチーズの間には、ささやかに餡子が忍んでいる。

だしとワインの出会いには、幸いが住んでいる。
【メニュー】
コースのみ 11,000円 (完全予約制) ※2日前までにご予約ください。
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。
おか田
〒221-0844 横浜市神奈川区沢渡2-4 YSビル2F045-624-8703
月〜土 17:30~22:30、日 12:00~15:30
不定休

この記事の筆者:森一起(ライター/作詞家/ミュージシャン)
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