今やすっかり市民権を得た保護猫カフェ。保護された猫の受け皿であり、訪れる人にとっては癒しの場でもあります。

実はさらにもう1つの役割を持つ保護猫カフェが船橋市にあることをご存じでしょうか?
猫かふぇ「和風猫本舗」は、就労継続支援B型事業所でもある猫カフェ。誕生には、オーナーさんの猫と人への深い思いやりがありました。
約60匹の猫が暮らす保護猫カフェです

「和風猫本舗」は猫カフェ、ペットシッター、就労継続支援B型事業の3つの事業の総称です。
事業の1つの猫かふぇ「和風猫本舗」は高根公団駅(千葉県船橋市)から徒歩2分の場所にあります。ここでは、約60匹の保護猫が暮らしています。

猫がたくさんいるということは、それだけ個性もあるということ。こちらの保護猫カフェでは、人への慣れ具合ごとに猫たちの写真がファイルされているので、猫との距離感を測りやすい!
これも猫との共生するための工夫の1つですね。

カフェ内の中心には猫溜まりが出現。

各々が自由にのんびり過ごしている姿に、癒されるばかりです。

なお、こちらの猫カフェでは、お迎えも可能。猫と暮らすこと検討している人は、こちらのお店からのお迎えも視野に入れてみてはいかがでしょう?
きっかけは東日本大震災

こちらのお店がオープンしたのは2017年。ですが、オーナーの金井さんの保護活動は2011年までさかのぼります。
その年に発生した東日本大震災で、飼い主と暮らせなくなった動物の保護ボランティアをしたことがきっかけで、保護活動に興味を持ちました。
そして、その当時、高齢者向け福祉施設で働いていた金井さんは利用者さんから度々「自分たちに何かあった時に、ペットの面倒を見てくれる人がいない」という相談を受けていました。

高齢者の方々と動物のどちらにも安心して暮らして欲しい。そんな思いから、最初に立ち上げたのが「ペットシッターMiacis」でした。
その後、自身で船橋市を中心に猫の保護活動も開始。保護した猫の受け皿として保護猫かふぇ「和風猫本舗」をオープンしました。

「不安よりも、自分ができることをやっていこうという思いが強かったです。
オープン当初は、看護師の資格を生かしてスポットの仕事をし、保護猫カフェの維持費や活動費などを捻出(ねんしゅつ)することもありました」(金井さん、以下同)
と、オープン当時を振り返りました。
「働きたい」という気持ちを大切にしたい

実は障害者スポーツの支援にも長く携わっていたという金井さん。
障害者が仕事をする上で制限を受けたり、自身の障害に対する気持ちを拭いきれず、精神が不安定な状態になりやすかったりすることから、継続して働くことが難しくなるという相談を受けていました。
彼らのための職場を作りたいと思った金井さんは、保護猫カフェとしての運営を休止し、就労移行支援(一般企業への就労を目標に就労訓練を提供する事業所)として「和風猫本舗」の運営を開始。

猫のお世話や事務作業といった職業訓練を提供していました。ところが、一般就労に移行しても、継続できない人が多いことがわかりました。
「仕事のスキルの問題ではなく、継続して働くことが難しいように見えました。そこで、『和風猫本舗』を就労継続支援B型事業所へ転向しました。仕事の成果よりも、就労したいという気持ちを大切にしています」

就労継続支援B型事業所は、働く意欲を支えることを目的に運営されています。障害や難病があり、主治医から事業所の利用の了解が得られ、指定の要件を満たした人が雇用契約をすることなく働ける場所です。
「和風猫本舗」は、「猫のためになるなら」と就労を希望する利用者さんも多いそうです。午前中は猫の生活環境の掃除や健康管理を実施し、午後は猫かふぇの運営として、SNS配信や店内の装飾作業を行っています。
「和風猫本舗」で働くようになってから、「朝に起きられるようになった」「ここにいる方がやるべきことがあっていい」と感じている利用者さんもいるそう。人も猫も社会との関わりを感じられる場所なんですね!
人と動物の共生を目指して、できることをこれからも

利用者さんと接する時の心構えを聞いたところ、
「人とも猫とも対等です。利用者さんに対しては同じ人間だし、特別に構えることはありません。
無理強いをせず『できることをやってもらえれば』という精神でいます。でも、利用者さんは猫に気を使うのに対し、猫は気を使わないですね」
そう笑って話してくれました。気になる今後の活動は、
「同じ建物の1階が空いています。そこに引っ越しできれば、車椅子を使用している利用者さんにも働いてもらいやすくなります。
猫の設備の高さを変えれば、車椅子でもお世話は可能です」
と、やはり利用者さんのことを考えていることがわかりました。

現在、お店があるのは3階のフロア。階段しかないことから、足が不自由な方が訪れるには難しい環境です。
しかし、引越し先のリフォームに多大な費用が掛かるのが難点だといいます。
「保護活動をしても、またどこからか猫がやってくる、ボランティアさんが活動を辞めてしまうなど、課題は尽きません。
でも、今後も自分のできる範囲のことを継続していきたいと思います」

人と猫、どちらも取り残さない「和風猫本舗」のような場所が、もっとあってもいいかもしれない。そんな風に考えさせてくれる場所でした。
<文・写真/増田洋子>
増田洋子
2匹のデグー、2匹のラットと暮らすライター。デグーオンリーイベント「デグーサロン」を運営。愛玩動物飼養管理士2級を取得。Twitter:@degutoichacora
(エディタ(Editor):dutyadmin)