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傷ついた友達を母親のようになぐさめる。“女同士の友情”が尊いワケ|ドラマ『いちばん

時刻(time):2023-11-09 09:10源泉(Origin):δ֪ 著者(author):kangli
いいテレビドラマ作品とは、ストーリーが単に面白いだけのエンターテインメントではない。人間という存在について視聴者が深く考えるきっかけになるものだ。 木曜劇場『いちばんすきな花』第4話より © フジテレビ(以下、同じ) 毎週木曜日よる10時から放送されている『いちばんすきな花』は、そんなきっかけを与えてくれる作品。4人の主要登場人物がいる中、特に
 いいテレビドラマ作品とは、ストーリーが単に面白いだけのエンターテインメントではない。人間という存在について視聴者が深く考えるきっかけになるものだ。

木曜劇場『いちばんすきな花』第4話より © フジテレビ

木曜劇場『いちばんすきな花』第4話より © フジテレビ(以下、同じ)

 毎週木曜日よる10時から放送されている『いちばんすきな花』は、そんなきっかけを与えてくれる作品。4人の主要登場人物がいる中、特に導き手となるのが、多部未華子だ。

「イケメンとドラマ」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、本作でひときわ魅力あふれる“励ましの人”多部未華子を解説する。








男女4人組の関係性


 男女の間に友情は成立するのか?

 答えが出ずに堂々めぐりする永遠の問いだ。この問題は難しい。さらにことを複雑にするとこうなる。男子ふたり、女子ふたりの男女4人なら、どうなる?

 男女のペアーになれば、ちょうど2組。ダブルデートもできるし、あるいは合コンも可能だろう。まずい、やはり友情からは遠のいてしまう……。が、『いちばんすきな花』の主要登場人物たちはどうやら例外のようだ。

 塾講師の潮ゆくえ(多部未華子)、出版社勤務の春木椿(松下洸平)、美容師の深雪夜々(今田美桜)、コンビニアルバイトの佐藤紅葉(神尾楓珠)がゆるやかに形成する男女4人組は、先の問いの難しさからは無縁の関係であるように思われる。





椿の自宅は4人にとって“絶対に安全な領域”


木曜劇場『いちばんすきな花』第4話より © フジテレビ
 彼らが集うのは、決まって椿の自宅。世間の当たり前からズレている自分に生きづらさを抱き続けるこの4人にとっては、絶対に安全な領域。ここなら安心できる。

 社会のルールや規範にしばられず、自由に自分が思うままに会話ができるコミュニティなのだ。ここでの会話はすこし独特。自分たちにしかわからない暗号のような言葉を投げ合う。まるで世界には、彼ら4人しか存在していないかのような印象を受ける。

 第1話でほとんど知らない者同士だった彼らが、気づけば同志として集まるようになった。外の世界で日々経験する心苦しさから解放されるために。本来の自分として生きるために。

 基本はリビングでの会話が中心になるが、ドラマは毎回、静かに育まれる。




















“らしさ”に拘束される夜々


木曜劇場『いちばんすきな花』第4話より © フジテレビ
 第4話での春木家の集いがなかなかドラマティックだ。全編でスポットがあてられるのは、夜々。彼女は小さい頃から特定の相手と向き合うのが苦手で、本来の自分に嘘をつきながら振る舞ってきた。

 実家から訪ねてきた母親・沙夜子(斉藤由貴)は、夜々を可愛いお人形さんであってほしいと思っている。女の子ならピンク。もっと可愛い服を着なさい。娘の本音も知らず、沙夜子が勝手に思う“らしさ”をぶつける。

 これ以上、らしさに拘束されたくはない。嫌気が差した夜々が、夕食途中に退席して向かうのが、椿の家だ。

 先に集まっている3人から続々メッセージが来る。食事そっちのけで返信する夜々を沙夜子が叱り、足止めをくらっていた。到着した夜々は、気丈に振る舞うが、ゆくえの顔を見て、どっとこみ上げる。






“励ましの人”多部未華子


 キッチンに立つゆくえの側に夜々が寄ってくる。袖を引っ張る。まるで子どものような仕草。夜々はゆくえを母親に見立てている。わずかな仕草から、これはただ事ではないと思ったゆくえは、彼女の背中をさすってやる。

 なんだろう、多部未華子のこの母親感。すごく優しげだけれど、すごく心強い。側にいてくれるだけで心強く感じられる。

 青山真治監督作『空に住む』(2020年)でも、多部は岸井ゆきの演じる後輩が破水し、泣き言を吐露する場面で、力強く鼓舞していた。

 かといって無責任に相手を肯定するわけではない。このあたりの塩梅というか、情感がほんとうに絶妙に表現されている。“励ましの人”多部未華子の魅力があふれる。













何よりも尊く感じる関係性


 中途半端になぐさめることもない。ゆくえがリビングの椿にさっと視線を遣る。普段はぼおっとりしているかに見えて、わかるときはわかる椿。ゆくえの意図をちゃんと察して、紅葉を誘って飲みに出かける。

 ゆくえと夜々がふたりになる。お腹が空いていないか確認し、夜々のために残しておいたピザをレンジで温める。食卓テーブルについた夜々が語りだす。

 ゆくえはキッチンでたたずみ、静かに耳を澄ませる。リビングとの距離感が素晴らしい。夜々が悩んできた性差についての会話場面は静かだが、濃密な人間ドラマがこの空間に立ち上がる。

 話しているうちに泣き始める夜々のほうへ、ゆくえが振り返る。そして気づけば、ゆくえがリビングにいて、夜々の隣に座っている。

 その後、帰宅途中のゆくえと夜々が、バスに揺られるツーショットがまたいい。ゆくえの空気に抱かれるように夜々は安心しきっている。

 春木家からバス車内へ。この移動中、彼らの関係性は、男女の友情問題を考えるより難しいなと思った。難しく、独特な空気感だが、何よりも尊く感じるものだなと。

<文/加賀谷健>
加賀谷健
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu




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