「ゾンビを殺すのは犯罪になりますか?」。笑う前につい真剣に考えてしまう、小さくて大きな疑問。あなたにもひとつやふたつ、ありますよね。
『おとな六法』クロスメディア・パブリッシング(インプレス)は、人生におけるささやかな疑問に、真っ向から取り組んだ本。著者は弁護士の岡野武志先生と、岡野先生が代表を勤めるアトム法律事務所です。現役の弁護士がお茶を濁すことなく、大真面目にこたえています。
日常に潜む小さくて大きな疑問、それって法に引っかかりますか?
本書には、アニゲーの中に登場するファンタジックな疑問から、学校や職場でリアルに飛び交う疑問、そして実際の犯罪や近年深刻化しているネット上の誹謗中傷まで、まるっと網羅(もうら)。子供だけではなく、大人にも役立つ法律情報が満載なのです。
ちなみに「ゾンビを殺すと犯罪か否か」。
こちらの結論は「ゾンビを殺すと犯罪」。「ゾンビはもともと人間です、人間からゾンビになる途中で殺したなら、殺人罪に問われる」と諭されると納得がいきますね。しかし「完全にゾンビになったあと殺したとしても、死体損壊罪が成立する」というので、やはり罪にはなってしまいます。
「身を守るためにゾンビを殺したなら、正当防衛になる可能性もある」とのことですが、弁護士のアドバイスはひとつだけ。
「ゾンビから襲われたら、全力で逃げて」……どうやら、逃げるが勝ちのようです。
飲み会の席で必ず起こるあの事象
2023年も終盤に差しかかり、飲み会も増えはじめる時期。乾杯のあとに必ずといっていいほど起こるのが、唐揚げにレモン問題。
「人の唐揚げに勝手にレモンをかけたら犯罪ですか?」

(以下、写真はイメージです)
結論は「唐揚げにレモンをかけたら犯罪になる場合がある」。
理由は「重度のレモンアレルギーの人の唐揚げに勝手にレモンをかけたら器物損壊罪」。さらに「アレルギー症状が出たら傷害罪になることもある」。とどめに「アレルギー症状で亡くなった場合は傷害致死罪・殺人罪になることも」。
たかがレモン、されどレモン。小さな親切が大きな犯罪に発展する恐れもあります。必ず一声「レモンOK?」を忘れずに。
交通ルールは車にとって不利?
バスに乗り遅れそうになった時、時間に間に合いそうにない時。ついやってしまうのが乱横断。左右を確認したからいいや、と油断して渡ったとたんに、死角から車が出現!
肝が冷える瞬間ですが、さて「信号のない横断歩道で人とぶつかったら、どっちが悪いですか?」。
交通事故は、ささいな気の迷いが原因かもしれません。とはいえこの場合、歩行者に非がありそうですが実際にはどうなのでしょう。
結論は「基本的に車が100%悪い」。車の運転手が気の毒になってしまいますが、法律的には「信号のない横断歩道を渡ろうとする歩行者がいたら、車は一時停止する義務がある」のです。
運転手は運が悪かった、ということになるでしょうか。ところが、「歩行者が急な飛び出しなどをしていたら、歩行者にも責任があることになる」という事例もあります。
道路を斜めに横断する、というのは道路交通法第12条、第13条で禁止されている行為です。時間と心に余裕を持って、交通ルールは必ず守りましょう。
もっとも身近かもしれない犯罪「ネットでひどい悪口を言う」
顔が見えないから、個人が特定されないから。言葉だけが横行するネットという世界に依存し、別人格を装って傍若無人にふるまう人がいます。直接危害を加えてないとはいえ、言葉は人の心を切り刻む刃にもなるのです。あげく、命を奪う事態になってしまったら…。
「ネットでひどい悪口を言うのは犯罪ですか?」。
結論は「犯罪になる。最近、刑罰が厳しくなった」と本書が断言。「ネットでひどい悪口を言ったら、侮辱罪になる可能性がある」「侮辱罪は2022年に厳罰化され、懲役刑も科されるようになった」。そして「主犯だけでなく共犯も処罰される可能性が高まった」といいます。
誰もが気軽に自己主張できる時代だからこそ、発信は慎重に行いたいもの。憎しみを込めた言葉は、いずれ自分に返ってきてしまいます。見ず知らずの人の冷やかしや誘いに乗らず、愛ある言葉でSNSを満たしましょう。
もし、この世に弁護士がいなかったら
弁護士。事件や事故が起こらない限り、一生関わることのない人種かもしれません。そう、事件や事故に巻き込まれなければ。
「もし、この世に弁護士がいなかったらどうなりますか?」
あなたは、考えたことがありますか? 結論は「弁護士がいないと無資格の『事件屋』がはびこる」。
『事件屋』とは「資格がないのにトラブルに介入して報酬をもらう人たちのこと」。
実際に、江戸時代から『公事師』という事件屋が暗躍していたそうです。世間には重箱の隅を楊枝でほじくるような商売が、水泡のように生まれてくるのです。
私は弁護士事務所で働いた経験がありますが、皆さん、わりと身近な問題で駆け込んできました。
「隣の犬がうちの門の前に糞をした」「近所の木の枝葉が家の窓を覆ってくる」等々。他人様にとっては小さな問題でも、当事者にとっては大きな問題です。ゾンビも唐揚げも然り。人が健やかな人生を送るために、今日も弁護士は奔走しています。
本書を一読すれば、弁護士の成分がやさしさと勤勉さと誠実さと、ほんの少しのユーモアというのがわかるのではないでしょうか。
<文/森美樹>
森美樹
1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx
(エディタ(Editor):dutyadmin)

