日本人は、血液型占いなど、「ABO式血液型」にまつわる話題が好きなようです。筆者もお酒の席などで話題に困ったときに「私は何型に見えますか?」などと人にたずねることもあります。
血液型によって性格が違うという説が一般に浸透しているので、会話をはずませるきっかけにはなります。俗説も含めてさまざまなことが言われている「血液型」の話ですが、実際に血液型によって性格や、なりやすい病気などは違うのでしょうか? わかりやすく解説します。
そもそも血液型とは? 実はABO式は200種類以上の分類法の一つ
少し専門的になりますが、そもそも血液型とは「血液内にある血球のもつ抗原の違いをもとに決めた血液の分類」のことです。実はABO式だけではなく、RH式、HLA式、MN式、P式など約300種類以上の分類法があります。その中でABO式血液型だけがなぜか重要視されているのも不思議な話です。
一つの可能性としては、A型・B型・O型・AB型という「4つ」の型(タイプ)という数が、ちょうどいいのかもしれません。2タイプしかないと、優劣がはっきりして嫌な感じがしますし、逆に10タイプ以上あると細かすぎて、逆に面白くありません。
4タイプだと、A対B、O対ABなどとまあまあの数での比較ができるので楽しめるのではないでしょうか。また、多くの人が血液型別性格診断はあくまで「迷信」のようなもので、まじめに考えるようなことではないとわかった上で話しているからこそ、軽い気持ちで楽しめるのだと思います。
血液型と病気のリスクに関する研究報告、その真偽は?
一方で近年、日本だけではなく、海外でも血液型に関する様々な研究が行われるようになり、とくにABO式血液型と病気の発症リスクに関するさまざまなデータが報告されるようになりました。具体的には
・A型の人は胃がんになるリスクがO型の1.2倍
・AB型の人は認知症になるリスクがO型の1.8倍
などの研究報告があります。血液型は生まれながらに決まっているものであり、変えようがありません。それなのに「病気になりやすい」と言われてしまうと、不安になってしまいますね。
では、これらの報告は、真剣に悩むほど意味のあるものでしょうか。いろいろな意見があるでしょうが、現時点で、筆者は無意味だと考えています。その理由を説明します。
「総理大臣はO型が多い」なら、「O型なら総理大臣になりやすい」のか
話をわかりやすくするために、少し題材を変えてみましょう。日本の歴代の内閣総理大臣の血液型を調べたデータがあります。はっきりと血液型が判明している36人のデータのみですが、O型18人、A型11人、B型5人、AB型2人となったそうです。
日本人全体では、だいたいA型40%、O型30%、B型20%、AB型10%という分布であることを考慮しても、O型の総理大臣が圧倒的に多いですね。「O型はリーダーシップを発揮する性格なので総理大臣に向いている」といった分析をしたくなるかもしれません。
上で話題にした血液型と病気のなりやすさと同じように考えれば、「O型の人は総理大臣になりやすい性質」と言えそうですが、何か変なことに気づきませんか。
もしあなたがO型だったとしたら、総理大臣になれるでしょうか。そう、たぶんなれないでしょうね(もし総理大臣になれる素質があったとすれば申し訳ありません)。
実は、血液型が何だろうが、そもそも総理大臣になれる人はごく一握りの人だけです。総理大臣になった人の血液型の傾向だけを見て、「O型なら総理大臣になれる」と考えるのはおかしいことに気づきましょう。
病気のなりやすさについても、病気になった人の数だけにとらわれてはいけません。病気になった人と同じように、「病気にならなかった人の数」も考えるべきではないでしょうか。
例えば、ある病気になった割合が
・A型20%、B型18%、AB型16%、O型12%
だったと言われると、「A型の人はO型の人に比べて1.67倍のリスクがある」と解釈されるでしょう。「1.67倍なりやすい」と聞くと不安になりそうですが、これを、ある病気にならなかった割合でみてみると、
・A型80%、B型82%、AB型84%、O型88%
です。「どの血液型も、この病気にはなることはあまりない」と解釈できてしまいます。「リスク比」だけにとらわれて、真実を見誤らないようにしたいものです。
また、病気のなりやすさとは違いますが、「O型の人は蚊にさされやすい」という報告もあります。ある調査によると、メスのハマダラカを20匹入れた箱に、異なる血液型の人たちが腕を入れて10分間に何カ所刺されたかが数えられました。その結果、O型の人は5.045カ所刺されたのに対し、非O型の人は3.503カ所しか刺されなかったそうです。
このことから蚊はO型の血を好むという仮説が生まれているのですが、このデータと解釈にも注意が必要です。平均値だけをみるとそうかもしれませんが、おそらくO型でも3か所くらいしか刺されなかった人もいれば、O型でなくても6か所刺された人もいることでしょう。
つまり、蚊が刺す要因は、血液型以外にもあるはずなのです。それを考慮せず血液型のみを見て解釈してしまうと、真実を見誤ってしまいます。
「血液型の差異」の研究は、血液型以外の要因まで精査しなければ不十分
「血液型によって病気のなりやすさが違うかもしれない」という研究テーマは、着想は悪くないと思いますが、非常に残念なことに、上で紹介したような様々な話のほとんどは「血液型で差があるはず」という思い込みで述べられているだけです。
同じ血液型でも、病気になる人とならない人がいるわけですから、その差をもたらす要因についても分析し、それを上回るほどの違いが血液型によって生じているという証拠を示す必要があるはずなのです。それを無視して血液型による差だけをことさら強調すると、非科学的な話になってしまいます。
自分がどの血液型であれ、病気のなりやすさは個々人の日頃の健康管理によって大きく変わるものです。筆者は、血液型の影響を気にする必要はないと考えていますので、食事や運動などの毎日の生活習慣に気をつけて、健康を維持していきたいと思っています。
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)