不倫は、もちろんよくない。でも、不倫ドラマは面白い。
特にゲスい最低男が登場する不倫物は格別である。毎週土曜日よる11時30分から放送されている『泥濘の食卓』(ぬかるみのしょくたく/テレビ朝日)で“やや渋”の不倫男を演じる吉沢悠がかなりヤバそうだ。
「イケメンとドラマ」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、“不倫ドラマの帝王”感が宿る本作の吉沢悠を解説する。
不倫ドラマの帝王、吉沢悠
船越英一郎が、“2時間サスペンスの帝王”の異名を取ってから久しい。ドラマ『テイオーの長い休日』(2023年)では、セルフパロディとして2時間サスペンス俳優役を演じ、その称号を改めて印象付けた。
その道一筋。職人的に固定のジャンルと役柄を極める。ひとりの俳優のキャリアを考えたとき、こうした明確な路線を打ち出すことは、相当なブランディングにつながる。
2時間サスペンスのように、一定層からの根強い人気があるジャンルならなおさらのこと。他に例えば不倫物はどうだろう。今、このジャンルで不倫男を演じさせるなら、吉沢悠の右に出る者はいない。吉沢は、同ジャンルに出演することを極めつつある、まさに“不倫ドラマの帝王”と呼ぶにふさわしいひとりだ。
「最高のクズ」役と呼ばれ
吉沢の俳優デビューは、1998年のドラマ『青の時代』(TBS)だが、45歳のベテランになった彼が、何だか妙に開眼したような気がする。
ここ最近の出演作で話題をさらったのが『夫婦が壊れるとき』(日本テレビ、2023年)。稲森いずみ演じる妻がいながら不貞の数々を露呈させる不倫夫役を演じきった。
映画制作会社の社長・真壁昂太(吉沢悠)は最初こそ、優しい夫であり父親に見えたのだが、裏では家の金を使い果たし、年若い女性との密会を繰り返していた。妻で内科医の真壁陽子(稲森いずみ)が夫の不倫を突き止め、壮絶な復讐劇を展開する。
復讐の鬼と化した稲森もすごかったが、爽やかな顔してあれだけ妻をあざむいた吉沢の演技も堂に入っていた。SNS上では「最高のクズ」とまで形容されたほどだった。
不倫の魔物が宿る目
最高のクズ役に続く不倫ドラマ出演作が、齊藤京子主演のドラマ『泥濘の食卓』だ。
本作は『夫婦が壊れるとき』をさらに上回るドロドロ具合。スーパーマーケット「スーパーすずらん」を舞台に、店長・那須川夏生(吉沢悠)と店員・捻木深愛(ねじき・みあ/齊藤京子)が不倫関係を結ぶ。
『夫婦が壊れるとき』では会社社長という役柄上、精悍でジェントリーな佇まいが特徴的だった吉沢だが、本作の店長役はかなり白髪交じりで、イケているとは言えない。だが、イケていないが故に、これは相当たちが悪い。
第1話冒頭、棚補充に手間取る深愛の元に駆けつけた夏生が、さっと唇を重ねる。いきなり店内での不貞行為。誰にも優しくされてこなかった深愛は、完全にメロメロだ。
不倫ドラマの帝王である吉沢の真骨頂がここで。眼鏡のレンズ越しにのぞく夏生の大きくソフトリーな目には、不倫の魔物が宿っているように見えたのだ。
不倫男の正体をあぶり出すホラー戦法
「パラサイト不倫」というキャッチコピーで宣伝されている本作では、そうした魔物感を強調するように、ややホラー・テイストの演出が節々に確認できる。例えば、初のデートだと深愛が飛んで喜んで行ったディナー場面。
夏生が選んだのは鰻屋という渋さ。開口一番の「別れよう」はさらに渋い。まだ肝吸いにも手をつけていないというのに、深愛の肝が潰れるあり様。しかも店内には彼らの他には誰もおらず、照明が異常なほど暗い。
何だこの異様な雰囲気。食事中のふたりの横を店員がひとりだけ通り過ぎる。これもまた不気味。それもそのはず。第1話の演出を担当するのが、安里麻里監督なのだ。『劇場版 零 ゼロ』(2014年)などを代表作とする安里監督は、ジャパニーズホラーの巨匠・黒沢清監督の弟子でもある。
ホラー色を全編に行き渡らせることで、この不倫男の正体をあぶり出す戦法か。ところがどっこい、別れを切り出された深愛は、諦めがつかずに恐るべきストーカーと化す。
これがパラサイトが意味するところなのだが、この不倫ホラー、まったく先が読めない!
<文/加賀谷健>
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2話より(以下同じ)
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土曜ナイトドラマ『泥濘の食卓』2話より
(エディタ(Editor):dutyadmin)










