Q. 楽しい夢を見たいのに、怖い夢の方が多いです。なぜでしょうか?
「悪夢を見る」「怖い夢ばかり見る」という話は聞きますが、「毎晩楽しい夢ばかり見る」という人の話はあまり聞いたことがありません。楽しい夢よりも怖い夢の方が多いのはなぜでしょうか?
Q. 「いつも楽しい夢を見たいと思っているのですが、夢の内容を思い出すと、怖い夢や少し嫌な夢の方が多い気がします。夢の中くらい簡単に理想通りになってほしいものですが、なぜ望んでもいない怖い夢の方を多く見てしまうのでしょうか?」
A. 生き抜くためには、他の感情より「恐怖感」や「不安感」の方が重要だからです。
夢は、脳に記憶された過去の出来事などを振り返る過程であり、現実世界で気になっていることや不安なことを反映する傾向があります。
たしかに楽しい夢ばかり見られれば理想的ですが、私たちが現実世界で「生きていく」ために重要なのは、楽しいことと怖いことのどちらでしょうか?
生きていくためには、自分の命を脅かすかもしれないものに対して、常に注意を払いながら適切な対応をとり、できるだけ解決を図っていくことの方が重要ですね。
そのため、個々人やそのときの状況に応じて程度の差はあれど、私たちの脳には常に「不安」があります。これは自分を守るために必要なものです。
私たちが一晩眠っている間には、体と脳がともに休んでいる「ノンレム睡眠」と、体は休んでいるけれど脳が活発になる「レム睡眠」の状態が交互に訪れます。
夢を見るのはレム睡眠時ですが、レム睡眠の状態では、とくに感情や価値判断を担う脳の「扁桃体(へんとうたい)」という部分の活動が活発になります。夢は扁桃体の活動を反映することになります。
扁桃体は、喜怒哀楽すべての感情に関わっていますが、とくに「恐怖」や「不安」をコントロールする中心的役割を果たしています。事故などで扁桃体を損傷すると、恐怖を感じなくなり、ためらわずに危険な行動をとってしまうようになることが知られています。
私たちの祖先である野生動物たちは、危険がいっぱいの環境を生き抜くために「扁桃体」を発達させ、適度に恐怖や不安を感じることで自らを危険から守ってきました。
この扁桃体の機能が、「怖い夢を見る」ということにつながり、危険を回避し命を守るために役立っているものと思われます。常に命を守ろうとする脳のはたらきが、「怖い夢」の多さに反映されているのですね。
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)