九州、特に福岡県は恐ろしい。映画も音楽もその豊かで滋味深い才能を驚くほど多く輩出しているからだ。
今や日本の俳優界屈指の名バイプレーヤーと呼称されるふたりの名優たちもそうだ。『EUREKA ユリイカ』(2001年)での共演以来のイケオジ盟友でもある。
「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、福岡同県人同士のイケてるつながりを解説する。
松重豊は、日本一のイケメン俳優?
ベベンベンベン。三味線がかき鳴らす効果音で歌舞伎俳優顔負けの決め顔を見せる。
『離婚弁護士Ⅱ~ハンサムウーマン~』(フジテレビ系・2005年・以下『離婚弁護士Ⅱ』)で天海祐希扮する離婚弁護士が案件の合間に通う居酒屋「鬼の涙」店主・大庭保を演じる松重豊の芸達者なこと。
この顔面の力強さ。そして圧倒的な求心力。元ヤクザの店主が凄みを利かせる顔そのものの魅力……。
松本潤主演の大河ドラマ『どうする家康』(NHK)で演じる石川数正役の重臣感あふれる表情を思い出してもいい。顔がフィーチャーされる意味では、綺羅星のようなイケメン俳優たちでも到底敵わない。
こりゃもう松重豊こそ、日本一のイケメン俳優だとすべきなのか。出身は福岡県だから、確かに九州男児の気風(きっぷ)を感じる。年齢的にはイケオジと形容するほうが妥当だが、単にそれだけではどうもしっくりこないのだ。
妙な説得力がある恐怖の演技
では、若かりし頃の松重はどうだっただろう。
例えば、松重出演作で筆者が偏愛しているのが、黒沢清監督による『地獄の警備員』(1992年)。暴力とホラーの映画マスター黒沢節炸裂の同作で、松重が初の映画オーディションで勝ち取り演じた恐怖の役柄とは。
舞台はある商社オフィス。夜な夜な警備を担当する富士丸(松重豊)が、廊下を歩いているだけでほんとうに怖い。元力士で実はとんでもない殺人マシーンなのだ(設定からしてヤバい)。無口な富士丸が社員たちをどんどん殺戮していく地獄絵図がひたらす描かれる。
超人的な怪力を備えた役柄に現実味は感じられないのだが、でも松重が演じると妙な説得力がある。当時の松重を見てイケメンだとは思わないのに、この演技は最高にイカしてるんだよなぁと強く思ったものだ。
光石研が炸裂させる突発的な暴力
ここで思いいたる俳優がもうひとりいる。同じく福岡県出身で、異常な暴力性を剥き出しにする役柄を演じる。
現在はイケオジ俳優の代表的人物。黒沢監督の後輩にあたる青山真治監督の劇場デビュー作『Helpless』(これまた筆者偏愛の1本)でヤクザを演じた光石研だ。
このヤクザな松村安男、浅野忠信演じる主人公・白石健次など身内には優しいが、キレると手がつけられない。人間性イコール暴力みたいな。『地獄の警備員』の松重同様に突発的にいきなり人を殴りつける。
突発的な暴力が炸裂する俳優の系譜って、なんだかとても不思議。青山監督が出身地の北九州を舞台に「北九州サーガ」として繰り返し描くその地域特有の暴力性が、こうして名優(盟友)たちによって紡がれ、語り継がれた。
松重と光石の初共演が、青山監督渾身の傑作『EUREKA ユリイカ』だったことも地味深い。
バイプレーヤーとしての役割
松重、光石ともに世界的な巨匠監督たちがテーマとする暴力性によって引き立つ俳優なのだが、一方で天海祐希つながりの緩やかな視点もここで導入しておきたい。
冒頭で指摘したように、『離婚弁護士Ⅱ』の店主役は、松重の名演のひとつだが、天海主演の刑事ドラマ『BOSS』(フジテレビ系、2009~2011年)では、光石がとてもいい味を出している。
光石扮する刑事部長・丹波博久は、特別犯罪対策室室長・大澤絵里子(天海祐希)の上司で、これがほんと嫌な役どころなのだ。
大澤のやることなすこと、気に食わず、ここぞとばかりにチクチク指摘。自分はとにかく保身に走る。ダメな上司の代表格のような存在だが、いやいやでもこんな役でも光石さんが脇を固めてくれるだけでドラマ全体がギュッと引き締まる。
『離婚弁護士Ⅱ』の松重も『BOSS』の光石も出番はわずかだが、それだけに存在感は増す。バイプレーヤーの役割として作品を支える縁の下の力持ちのように役柄を全うする慎ましさも忘れない(その意味では性格イケメン?)。
福岡人によるイケてる会合

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そんな名優人生とは別に音楽を愛好する一面も特筆しておきたい。ラジオパーソナリティとしての松重は、映画以上に音楽をこよなく愛するひとり。『深夜の音楽食堂』(FMヨコハマ)に来店するゲストとのトークの“豊さ”といったらもう。
光石も実は熱烈なソウルミュージック・リスナーとして知られている。
2023年3月19日には地元福岡で開催された音楽イベント「FUKUOKA MUSIC SUMMIT」トークセッション「街と音楽の記憶」に松重と音楽プロデューサー松尾潔(福岡県出身)とともにゲスト登壇。同県人同士で音楽について縦横無尽に語り合った。
松尾は『レイクサイド マーダーケース』(2005年)で主題歌を担当していて、青山監督つながりの奇縁を見出すこともできる。まるで松重、三石、松尾という苗字のスリーMトリオによって、映画も音楽も育まれてきたように感じる。ああ、なんてイケてる福岡人の会合だろうか。
<文/加賀谷健>
(エディタ(Editor):dutyadmin)


