保育士のイメージって何でしょうか。子供好き、世話好き、やさしい、愛情豊か。全部正しいです。でも保育士の成分の半分は、大変、辛抱、苦労でできているのではないでしょうか。
『問題のある保育園』(オーバーラップ はちみつコミックエッセイ)は、新卒保育士だった、さいおなおさんがつづった実録コミックエッセイ。無垢(むく)な子供達と慈愛に満ちた保育士達の交流が、時にほのぼの、時にピリッと辛く描かれ、旧Twitter掲載時には話題になりました。
本記事では、序章と第2話をご紹介し、後半ではレビューします。
忙しくたって、子供達の笑顔で癒される?
保育士とはいえひとりの人間、ストレスもあればフラストレーションもあり、子供達や同僚の保育士さんに矛先が向かうことも。そして幼いとはいえ子供達もひとりの人間、保育士のマイナスな感情を瞬時に察知して「先生、キライ!」なんて鋭く心をえぐってくることも。
子供達の笑い声とミルクの匂いに包まれた、平和の象徴のような保育園。しかし一歩足を踏み入れるとそこは、愛憎入り乱れる社会の縮図だったのです。

「小さい子のお世話が好き」それだけで大丈夫?
本書の主人公、さいお先生が保育士になったのは「幼い頃から小さい子のお世話が好き」だったから。小学生の頃から夢見ていた保育士になったさいお先生は、意気揚々と保育実習に取り組みます。最初に受け持ったのは2歳児クラス。
2歳児にもなれば自我も芽生え、言葉も達者になり、まさに可愛い盛り。反面、第一次反抗期、つまりイヤイヤ期がはじまる時期でもあります。ひととおり保育の勉強をしていても、子供達が予定調和に動くはずもなく、ちょっと目を離したすきに転んで怪我をしたり、子供同士でケンカをしたり。
世の中で尊敬すべき職業の上位に保育士がランクインしている私にとって、本書はまさに「尊敬」と「無理」のため息です。朝から夕方まで個性が豊かすぎる子供達のお世話をして、親御さんに気を配って、日誌を書いて…って時間がどれだけあってもたりませんよ。
子供達と保育士の相性もありますし、保育士同士の相性もあります。“ニッコリ笑って子供達に暴言を吐く”、なんて隠し技を放つ保育士さんもいたりして、主人公のさいお先生は真っ青。
とくにやっかいなのが、ユガミ先生。基本的には真面目で一見いい保育士なのですが、子供達への好き嫌いが激しいのです。
愛情過多なあまり、見返りを求めることもあれば、標的となる子供にわざと意地悪をするなんて日常茶飯事。しかも意地悪をするくせに「先生のお気に入り」と満面の笑みでのたまうユガミ先生って理解不能じゃありませんか。読んでいて私の背筋も凍りつきました。
子供達も保育士も人間、だから成長できる
保育園といえば、運動会に発表会、イベントがたくさんあります。そのたびに企画を考え、衣装や小道具を作るのです。全部、保育士の仕事。その間も子供達は通常業務。泣きもすれば、ワガママも炸裂(さくれつ)します。
多忙さに神経のトガり度マックスになっている保育士のメンタルなんて、知る由もありません。はい、ついにユガミ先生、「やっちゃいけないこと」をやってしまうのです。

ブチ切れた さいお先生が、怒りを抑えて説教する姿は共感しかありません。「やっちゃいけないことをやらないから保育士なんじゃないですか」。真意をついた一言が、胸に重くのしかかります。
保育とは、人間形成とは何なのか。本書の根底に流れるのは奥深いテーマ。和(なご)やかでテンポのいい漫画にのせられて、すいすいと読める本書。保育をとおして成長するさいお先生とともに、私達も成長できる一冊です。
<文/森美樹>
森美樹
1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx
(エディタ(Editor):dutyadmin)





















































