―連載「沼の話を聞いてみた」―
「信仰してないからがんになった」――そうたたみかける親戚の言葉をうのみにして、母が超大手新興宗教に入信したという過去を話してくれたのは、40代の橋本佳子さん(仮名)。
しかし信仰活動でがんが治るハズもなく、標準治療へ進み、その後再発。そして次なる沼、各種健康食品にハマった後、手当のかいなく亡くなった。
【前回記事】⇒「信仰しないからガンになったのよ!」母が診断されてすぐ新興宗教信者の親戚がやってきた。一変した家族の生活とは
佳子さんの母のように、がんを患い民間療法や健康食品に手を出した有名人は数えきれないほどいる。
有名どころでは、食事療法でがんに立ち向かおうとしたスティーブ・ジョブズ。乳がんで亡くなった、さくらももこや小林麻央。「がん放置療法」でぬか喜びを味わったと言われる川島なお美。
代替療法を経て亡くなった母親から「みそ汁」を受け継いだ女の子の物語、『はなちゃんのみそ汁』(安武信吾・千恵・はな著 文藝春秋)は美談として人気が高い。

佳子さんは現在、2児の母だ。
がんによって沼めぐりをすることになった実母を見ていてもなお、自分自身が妊娠出産子育てをするなかで、母のように藁(わら)にすがろうとした瞬間がたびたびあるという。
「うちの子どもがアトピーなんです。するとあれこれ調べ、脱ステロイドとかホメオパシーとかのほうが自然でいいんじゃないか? なんて思ったり。『ステロイドは怖い!』とか力強く書いてあると、不安になるじゃないですか」

「でも結局はいい小児科医師に出会えて、ステロイドでちゃんと治ると励まされ、実際そのとおりになったんですけどね。なんか必死になると……民間療法とかにふっと心を持ってかれることがある。だから母のハマった沼が、すこしは理解できるようになりました」
子どものつらさを取り除いてあげたいという、親心があればなおさらだろう。
「信仰してないからがんになった」――そうたたみかける親戚の言葉をうのみにして、母が超大手新興宗教に入信したという過去を話してくれたのは、40代の橋本佳子さん(仮名)。
しかし信仰活動でがんが治るハズもなく、標準治療へ進み、その後再発。そして次なる沼、各種健康食品にハマった後、手当のかいなく亡くなった。
【前回記事】⇒「信仰しないからガンになったのよ!」母が診断されてすぐ新興宗教信者の親戚がやってきた。一変した家族の生活とは
佳子さんの母のように、がんを患い民間療法や健康食品に手を出した有名人は数えきれないほどいる。
標準治療を拒否した有名人たちも
有名どころでは、食事療法でがんに立ち向かおうとしたスティーブ・ジョブズ。乳がんで亡くなった、さくらももこや小林麻央。「がん放置療法」でぬか喜びを味わったと言われる川島なお美。
代替療法を経て亡くなった母親から「みそ汁」を受け継いだ女の子の物語、『はなちゃんのみそ汁』(安武信吾・千恵・はな著 文藝春秋)は美談として人気が高い。

佳子さんは現在、2児の母だ。
アトピーで泣く子を前に
がんによって沼めぐりをすることになった実母を見ていてもなお、自分自身が妊娠出産子育てをするなかで、母のように藁(わら)にすがろうとした瞬間がたびたびあるという。
「うちの子どもがアトピーなんです。するとあれこれ調べ、脱ステロイドとかホメオパシーとかのほうが自然でいいんじゃないか? なんて思ったり。『ステロイドは怖い!』とか力強く書いてあると、不安になるじゃないですか」

「でも結局はいい小児科医師に出会えて、ステロイドでちゃんと治ると励まされ、実際そのとおりになったんですけどね。なんか必死になると……民間療法とかにふっと心を持ってかれることがある。だから母のハマった沼が、すこしは理解できるようになりました」
子どものつらさを取り除いてあげたいという、親心があればなおさらだろう。
特に子どもが小さければ、毎日のお世話に明け暮れながらちょっとした隙間(すきま)時間にポチポチ検索するくらいしかないので、そうした情報にハマりやすくなる。

「二人目不妊だろうかと悩んだときは、冷えとり靴下に心をもっていかれましたね」
靴下に希望を託す
「私はもともと冷え性で、靴下を3枚とか履いてたんで、5枚重ねるのは抵抗ありませんでした。『冷えとりで自然妊娠!』みたいな記事を読むと、希望が湧いてくるんです」

「毎日体に手をかけてると、すごくいいことをしている気になって楽しかった」
佳子さんの話す「冷えとり靴下」とは、天然素材の靴下を5〜10枚重ね履きして足裏から毒素を出すと健康になれる、と謳われた健康法である。
体が冷えるからあたためるという一般的なものとは違い、“つわりも更年期の不調もがんも虫歯も何もかもがコレで解決!ミラクル!”という、なかなかに突拍子もないことが主張されている健康法だ(しかも医師が提唱した健康法であるのが、すごい)。
冷えは天敵、という思い込み
「いま思うと妊活、出産、子育て情報って、そうしたおかしな健康情報っていくらでも混ざっているんですよね。妊婦は体を冷やしちゃいけない、とかってごく普通に言われることじゃないですか」

「だから冷えとりも体にはいいよね、と思って普通に受け入れていました」
冷えとり健康法の面白いところは、重ね履きした靴下に穴が開くと「毒素が出た証拠」とされるところだ。佳子さんは、穴の開かない靴下を見て「私もまだまだだな〜(笑)」と思っていたそう。
筆者は穴が開いたら、重ね履きしたことによる摩擦だと思うのだが。
めでたいことに佳子さんはその後、妊活のかいあって第2子を出産した。となると、冷えとりの効果と言えるのだろうか?
「妊活のためにクリニックにも通うようになり、その後妊娠したので普通にホルモン剤のおかげですね(笑)」

「こうしてたびたび、私も民間療法的なものに期待して試してみることもあるんですが、でもやっぱりいろいろなものに手を出して結局何の成果も得られなかった母を思うと、怪しげなものに手出しちゃ駄目だなと正気になって、沼のごく浅いところからすぐに引き返してきます」
父は常に冷静だった
「ちなみに冷えとり健康法は、半年くらいでやめました」
娘の反面教師になったなら、喜ばしいかもしれない。
さて、母の宗教沼や健康食品沼からの防波堤になってくれた父親も実は、昔から心臓に持病を持っていたという。

まさか父も別の沼に……? とはならなかった。
「うちの父は、根拠のない類のものは、一切信じない現実的な人なんです。昔、人の心の機微も淡々と論理的に考察する『天才柳沢教授の生活』って漫画とドラマがあったじゃないですか。あんな感じの人でした」
当事者ほど意識が必要
「だから父は淡々と手術を3回受け、いまも小康ながら元気に暮らしているんですよね。根拠のないものを、信じない人は強い。不安に心を持っていかれない人は強い。父を見るたび、つくづくそう感じますね」
「喉にネギを巻く」といったおばあちゃんの知恵袋的な民間療法や、土地の神様にお参りするなどの民間信仰的な厄除け祈願。私たちの日常には、そうしたものがそこここに息づいていて、大なり小なり「科学的根拠のはっきりしない」ものを、ほとんどの人が取り入れているだろう。
ところが「大病」となると、その入り口が急に大きく広がっていく。
こうした話はどこにでもよくあるのだが、いざ当事者になるとそれを忘れてしまう瞬間がある。母の闘病によってそれを見てきた佳子さんは、「常に意識的に思い出すようにしている」と教えてくれた。
<取材・文/山田ノジル>
山田ノジル
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
(エディタ(Editor):dutyadmin)
