「ピザ、ピザ、ピザ…」の引っかけ遊び、なぜ人はだまされる!? 脳科学者がまじめに分析し

時刻(time):2023-08-04 20:35源泉(Origin):δ֪ 著者(author):kangli
記憶にはいろいろな種類があります。去年の夏に家族で東京ディズニーランドに遊びに行ったというような自分が体験した出来事の思い出(エピソード記憶)や、日本の都道府県名を暗記しているといった知識(意味記憶)の他に、練習を繰り返して身につける技術(手続き記憶)も、脳に情報が蓄積された「記憶」の一種です。 これまでの記憶研究から、あともう一つ、

記憶にはいろいろな種類があります。去年の夏に家族で東京ディズニーランドに遊びに行ったというような自分が体験した出来事の思い出(エピソード記憶)や、日本の都道府県名を暗記しているといった知識(意味記憶)の他に、練習を繰り返して身につける技術(手続き記憶)も、脳に情報が蓄積された「記憶」の一種です。

これまでの記憶研究から、あともう一つ、知らず知らずのうちに脳に刻み込まれ、自分の意思と関係なく思い出してしまうようなタイプの記憶があります。一般に「プライミング」または「プライミング効果」と呼ばれるものです。

実はこのタイプの記憶は、みなさんがその存在に気付かないうちに、日常生活の中で体験するさまざまな事柄に多大な影響を与えています。今回はこの不思議な記憶の一種「プライミング」について解説します。

プライミング効果の例…「ピザ、ピザ、ピザ」のひっかけ遊びも

普段みなさんが意識していない「プライミング」の存在に気付いてもらうために、一つ実験をしましょう。

「次に示す【 】内の〇の中に、ひらがな一文字入れて、意味のある3文字の言葉を完成してください」と言われたら、皆さんは何と答えますか?

【 き 〇 く 】

とりわけ慎重で、「これはなにか裏があるに違いない」と疑って考えた人を除けば、多くの方が〇の中に「お」を入れて、「きおく」という言葉を完成させたのではないでしょうか。

よくよく考えてみると、〇の中に入れられるひらがなは他にもたくさんあって、きかく(企画)、きそく(規則)、きたく(帰宅)、きとく(危篤)、きはく(気迫)、きやく(規約)、きぞく(貴族)、きづく(気づく)、きらく(気楽)、きんく(禁句)などたくさんの言葉を作ることができるのに、なぜか「きおく」と答えてしまう……。

これがまさにプライミングの効果です。

この記事の冒頭からここまで、何度も「記憶(きおく)」という言葉がくりかえし出てきましたね。それを読んでいるうちに、あなたの頭の中にはあらかじめ「きおく」という言葉が無意識のうちに刻み込まれており、「き〇く」と提示されると「きおく」と思いつきやすくなっていたのです。

またすでに知っている人もいるかと思いますが、こういう遊びがあります。

相手から「ピザ、と10回言ってください。」と指示されたら、あなたはその通り、ピザ、ピザ、ピザ…と復唱します。その直後に、相手が腕の関節を指さしながら「じゃあ、これは何ですか。」とたずねたら、あなたがついつい「ヒザ(膝)」と答えてしまう、というひっかけ遊びです。

もちろん、冷静に考えれば「ヒ“ジ”(肘)」であることは誰でもわかるのですが、ピザという言葉が無意識のうちに頭の中に刻み込まれた状態でたずねられると、ピ“ザ”と似た「ヒ“ザ”」と口走ってしまうというカラクリです。

引っかかってしまった人は、「くやしい~」と思うかもしれませんが、悔しがることはありません。むしろ、ひっかかったということは、あなたの脳にはちゃんと「プライミング」という優れた仕組みが備わっている証拠ですから、胸を張ってください。 

プライミングとは…先に触れた情報・体験が、後の事柄に影響すること

上の実験でお分かりのように、プライミングとは、「先に触れた情報や体験した出来事が後に続いて起こる事柄に影響を与える」ことです。そして、プライミング効果をもたらすのに先行する刺激のことを「プライマー」、影響される後続の事象を「ターゲット」と呼びます。

つまり、プライミングとは「プライマーによって、ターゲットの処理が促進または抑制される効果」とも定義されます。

プライミングは、もともと「次の同じ経験をしたときには素早く対応できるように用意しておく」ための仕組みと考えられます。

例えば、本を読むときに、事前に内容を何となく知っていると、何も知らないで読むときより早く読めます。この記事もそうですが、新聞や雑誌の記事に「見出し」がついているのも、プライミングのしくみを利用した工夫です。

中に何が書いてあるのか不明なまま読み始めると、理解に時間がかかりますし、途中で読むのをやめがちになりますが、見出しにあるキーワードがプライミングされていると、記事がすらすらと読みやすくなります。素早く対応できるように準備しようとする仕組みが、プライミングというわけです。

コンピューターと私たち人間の脳はよく比較されますが、このプライミングという能力は、現在の標準的なコンピューターには備わっていません。コンピューターは情報の蓄積能力において人間より優れていると思われますが、情報の価値判断は行えず、一度経験した事柄でも初めて経験した事柄と同じ速度でしか処理できません。

私たち人間は、プライミングという能力により、前に一度経験した事柄はすばやく処理するという、柔軟な対応ができる点で、コンピューターより優れているといえます。

プライミング効果の注意点…ときには役に立たず、仇になることも

しかし、プライミングは、役に立つばかりでなく、ときに不都合を生じるときもあります。先の例ですと、「き〇く」と提示されたときに、「きおく」を連想しやすくなる代わりに、きかく、きさくなど、他の言葉を思い出しにくくなります。

つまり、プライミングは、後に起こる事柄について勝手な予測を立て、思い込みを発生させてしまうのです。予測通りのことが起きた場合には速やかに反応できますが、予測に反することが起きてしまうと処理するのに手間取ったり、場合によってはそのことに気づかなかったりします。

実は日常生活のちょっとした失敗や勘違いの多くは、プライミングによる思い込みによって起きていることが多いのです。プライミングというしくみがあることを知っておくと、思い込みや勘違いの失敗を少し減らせるかもしれません。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。


執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)
(エディタ(Editor):dutyadmin)
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