―連載「沼の話を聞いてみた」―
子どもにエリートコースを歩ませたい。そうした目的を持つ親たちが集まってきていたという、早期教育の知育教室。
そこへ通っていた歩(あゆみ・仮名)さんの話から、親たちの切迫した熱意や、怪しいビジネスとの親和性が見えたのが、ここまでの話である。
さて、肝心の知育効果はどうだったのか。
「結局どれだけ早期教育をがんばらせたところで、あまり意味がなかったように思えます。ウチの場合、親の言うことをまったくきかない子だったこともあり、何の効果があったのかよくわからない。一方で、それなりの学校に入りその後活躍している子どもも、結局この子は早期教育やらなくても優秀だったよね……という感じでした」
【前編を読む】⇒幼児教室ママたちの異様な熱狂。幼稚園児に「検定試験に向けてのガリ勉」は本当に必要?
【中編を読む】⇒幼児教室でインフルエンザ発生。“激怒するお受験ママ”VS“ワクチン否定の自然派ママ”が大ゲンカ
逆にどれだけ勉強しても、効果どころか心を病んでドロップアウトしてしまった子も少なくないとのこと。
「医者になったり海外で弁護士やっていたりとか、親の思いどおりになった家庭はごく少数です。あの早期教育に費やしたお金を、別のことに使っていたらねえ……なんて、このあいだママ友たちと笑い合いました。ギャー!とか泣いている子に、音楽どころじゃないだろう。昼寝のほうが大切だったよね、とか」

教育熱心な家庭の子どもたちを数多く見てきて、「親や学校に反抗できる子どもはまだいい」と歩さんは話す。大人しくいうことを聞き、真面目に取り組んでいた子ほど、ある日突然引きこもってしまうケースをよく見かけるという。
子育てのなかで、親の思想・世界観がまったく入り込まない家庭はまず存在しない。しかしあまりにも子どもが置き去りにされ、親の思惑や自己実現が優先される光景には胸が痛くなる。
「教育虐待」という言葉もあるが、どこからが虐待になるかの線引きは正直難しい。きっと昨今加熱している中学受験でも、親たちのあいだでは似たり寄ったりの沼が出現しているだろう。
歩さんが見てきた「早期教育にのめりこむ親」には特徴があった。「ちょっとこの人大丈夫かな?と心配になるくらいに熱心なお母さんは、自分自身の学歴にコンプレックスがあるケースが多かった」という。
子どもにエリートコースを歩ませたい。そうした目的を持つ親たちが集まってきていたという、早期教育の知育教室。
そこへ通っていた歩(あゆみ・仮名)さんの話から、親たちの切迫した熱意や、怪しいビジネスとの親和性が見えたのが、ここまでの話である。
さて、肝心の知育効果はどうだったのか。
「結局どれだけ早期教育をがんばらせたところで、あまり意味がなかったように思えます。ウチの場合、親の言うことをまったくきかない子だったこともあり、何の効果があったのかよくわからない。一方で、それなりの学校に入りその後活躍している子どもも、結局この子は早期教育やらなくても優秀だったよね……という感じでした」
【前編を読む】⇒幼児教室ママたちの異様な熱狂。幼稚園児に「検定試験に向けてのガリ勉」は本当に必要?
【中編を読む】⇒幼児教室でインフルエンザ発生。“激怒するお受験ママ”VS“ワクチン否定の自然派ママ”が大ゲンカ
エリートになったのは少数派
逆にどれだけ勉強しても、効果どころか心を病んでドロップアウトしてしまった子も少なくないとのこと。
「医者になったり海外で弁護士やっていたりとか、親の思いどおりになった家庭はごく少数です。あの早期教育に費やしたお金を、別のことに使っていたらねえ……なんて、このあいだママ友たちと笑い合いました。ギャー!とか泣いている子に、音楽どころじゃないだろう。昼寝のほうが大切だったよね、とか」

教育熱心な家庭の子どもたちを数多く見てきて、「親や学校に反抗できる子どもはまだいい」と歩さんは話す。大人しくいうことを聞き、真面目に取り組んでいた子ほど、ある日突然引きこもってしまうケースをよく見かけるという。
母親自身の学歴コンプレックス
子育てのなかで、親の思想・世界観がまったく入り込まない家庭はまず存在しない。しかしあまりにも子どもが置き去りにされ、親の思惑や自己実現が優先される光景には胸が痛くなる。
「教育虐待」という言葉もあるが、どこからが虐待になるかの線引きは正直難しい。きっと昨今加熱している中学受験でも、親たちのあいだでは似たり寄ったりの沼が出現しているだろう。
歩さんが見てきた「早期教育にのめりこむ親」には特徴があった。「ちょっとこの人大丈夫かな?と心配になるくらいに熱心なお母さんは、自分自身の学歴にコンプレックスがあるケースが多かった」という。

「お父さんは、世間一般で高学歴と言われるような部類です。そうした場合、子どもの成績が悪いと母親のせいにされると思うのでしょうか。もしくは、自分が果たせなかった夢を、子どもに託(たく)しているのか。
どちらにせよ、父親の存在を感じる家庭がすごく少なかった。前に早期教育仲間のお子さんが不登校になったとき、お母さんが心配していたのは『勉強が遅れるんじゃないか』だったんですよね。え、子どもの心を心配するんじゃないんだ…と、そのお母さんの精神状態も心配になりました」
子どもが選ぶ結婚相手とは?
歩さんが早期教育の沼を振り返ったいま、いちばん心配になるのは子どもたちの人権意識だ。

「だって自分がまったく尊重されてこなかったのに、他人を尊重することなんてできませんよね。過剰な早期教育を押し付けられて育つと、勉強さえしてればいいんでしょう? みたいな気持ちにもなるんじゃないでしょうか。
いま、結婚している子どもたちもそれなりにいますが、そこですごく不思議に思っているのが、私たちみたいな教育ママに育てられて、名門進学校に行って東大入って就職して……みたいな人が選ぶ女性が、知性重視じゃなくて見た目重視に思えるケースが多いこと。
そうして子どもが生まれると、再びお母さんが子どもの成績を自分のせいにされては…と、早期教育に走りそう。そんな悪循環があるんじゃないかと思うんですよね」
母親の自己犠牲が求められる社会
早期教育を取り入れる親たち一人ひとりに、それぞれの背景があるだろう。それでも、子どもに関することはすべて母親の責任にされてきたことや、子どものための自己犠牲が美徳とされてきたことも、深く関係していそうだ。
親の焦りや不安を利用するビジネスは教育分野に関わらず山ほどあるが、「子どもを巻き込むということに、もう少し敏感になってもらえれば」と言う歩さんの言葉を、同じく子持ちである筆者も心に刻んでおきたい。
<取材・文/山田ノジル>
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
(エディタ(Editor):dutyadmin)
