―連載「沼の話を聞いてみた」―
「無理にでも、助産院という選択を止めればよかった」――そう語るのは、旺太郎さん(仮名・50代)。離婚の決定打が、妻が出産でお世話になった助産院との関わりにのめりこんだことだと考えるからだ。
旺太郎さん夫婦は結婚してすぐに子どもを授かり、友人が出産したという助産院へ通い始めた。すると「定期接種のワクチンは必要ない」をはじめ、夫の想いや考えは脇に置かれ、助産院経由で仕入れてきた意見が優先されていった。

そうしているうちに、妻が助産院での仕事に誘われ、通いやすい場所に別宅をかまえ、結果、離婚に至ったという。
助産院に関する評判
「僕の仕事仲間もその助産院を知っていて、“あそこはワケありの、こじらせた人が行くところだ”なんて言っていました。それはちょっと極端な表現だとは思いましたが、自分も参加した勉強会の様子を思い出すと、そう言われる要素もあるのかな。
もしかしたら助産院の影響だけでなく、もともとちょっと思想に偏りがあったのかもしれませんが、交際期間が短く結婚したので、妊娠するまではそうした一面にまったく気づきませんでした」
たしかに助産院と関わらずとも、いずれ何かしらのきっかけで、元妻は夫より自分の活動を優先していたのかもとも思える。しかし旺太郎さんがいま心配しているのは、別居に至る過程で気づいた、元妻の“沼”体質だ。人生を導いてくれるような人物を見つけると、妄信的になってしまうのでは、と話す。
ヨガ講師のひと言で…
「助産院の件だけではありません。結婚前から親しくしている、ヨガ講師女性との関係性にも違和感がありました」

旺太郎さん夫婦は、結婚前からのふたりの共通の趣味で、日本全国の縁起物を集めていたという。妻はそれを室内におしゃれに飾り、大事に扱っていた。
「ところがです。日ごろからレッスンだ勉強会だとよく話に出ていたヨガ講師が、産後、家に来たときのこと。子どもが小さいので出歩けない妻のために、だったらと家で勉強会を開いてくれることになったんです。
家に来たヨガ講師が、室内の縁起物を見て『これ、よくないよ』と言い出しました。すると妻は、翌日サクッと捨てていました。あんなに大切にしていたのに!? ふたりの思い出でもあるのに、そんなに簡単に!? と。驚きますよね?」
信頼した相手の言うことは、全面的に受け入れるタイプのようだ。さらにそれだけでなく、勉強会そのものも不安要素が見られた。

「元妻が長年定期的に参加していた“勉強会”は、講師に参加費を払う有料の集まりです。いままで何を学んでいるのか知らなかったのですが、家で子どもの相手をしながら聞こえてしまうのでつい耳を傾けると……え、これで金をとるの!? という中身がない内容だった」
妻の「体質」を不安視
参加者が「こんなことに挑戦したい」という相談を持ち掛けると、それに対しヨガ講師が「うん、いいと思うよ!」と励ますだけの繰り返しだったという。カウンセリングで信頼関係を築くため、相手の話を肯定しながら話を聞くというのはよくある手法だとは思うが、縁起物の話も含め、それとは違う何かを感じる。
「縁起物を即効処分した件といい、助産院の件といい。懐に入り込まれたら、白いものでも黒というように妄信してしまう人なのでは、と思いはじめました」

「今後こんな調子で、交友関係のなかから師匠、先生、伝説のすごい人……とかが出てきてマルチ商法やその他の似たような詐欺まがいのことに巻き込まれてしまわないかが心配で仕方ありません。元妻だけならともかく、彼女と生活を共にしている自分の子どもがいますから、交流が途絶えないよう、注意深く見守っていくつもりです」
そうした経緯があるからか、旺太郎さんは些細(ささい)なことも過剰に心配してしまう。
子どもへの接し方、これでいいのか…?
「離婚後は月に数回うちに来て、家族そろって食事することになっているのですが、いま2歳の子どもは米や野菜を食べず、肉や麺、パンが中心です。それって食育的にどうなのか。子どもの体格が横にも縦にもすごく大きいので、将来糖尿病になったりしないかとも心配です」

「また、食後に自分と子どもが遊んでいるあいだなど、妻がずっとスマホをずっといじって子どもに一切話しかけないのも気になって。自分が同席しているからなのかもしれませんが。子どもが年齢のわりに発語がすごく少ないのも、普段からこう接しているからでは? とか考えてしまうんですよね」
家族が“沼”にハマったとき
あくまで素人考えであるものの、旺太郎さんが口にするお子さんの発育の心配は、そこまで心配するような類のものではないように思える。しかし離れて暮らしているうえ、元妻に妄信的な要素を見てしまった旺太郎さんは、あらゆる不安が増幅してしまう。

「子どもに関しては、健康面、日常生活のさまざまなことも含めて、中学生くらいになって自分の家は周りと違う価値観なんだなということに気づいてくれればと考えています。そして母親の影響から脱出して、精神的に距離を置いてくれればと願うしかありません」
今回の体験談は、助産院の是非や家族の在り方を問うものではなく、「パートナーに“沼”の影を見た」という体験談のひとつである。
冒頭で旺太郎さんは「助産院という選択を止めればよかった」と言っていたが、それはそれで関係が破綻する可能性も高いだろう。しかし完全に放置して“沼”に深入りすれば、家族がさらに苦労するのは想像に難しくない。
“沼”にハマった家族の扱いの難しさ。それがよく伝わってくる話だった。
<文/山田ノジル>
山田ノジル
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru
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