運動中のケガは避けたいもの。そのため、運動前後は必ずウォーミングアップとしてストレッチを行うという人も多いでしょう。
しかし、ただ行えばいいというわけではありません。ストレッチにも種類があり、目的に応じておすすめのストレッチは異なります。
やり方を間違えると効果が出ないだけでなく、むしろ怪我や故障の原因に繋がりかねません。運動中のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性もあります。
今回は、ストレッチの種類と効果、シーン別おすすめのやり方、ポイントを解説していきます。
ストレッチの種類
ストレッチには大きく分けて3つの種類があります。
静的ストレッチ(スタティックストレッチ)同じ姿勢をキープし、じっくり筋肉を伸ばす方法が「静的ストレッチ(スタティックストレッチ)」です。皆さんがストレッチと聞いてイメージするのは、この静的ストレッチが該当するかと思います。
静的ストレッチのメリットは、「柔軟性(静的柔軟性)」を高める効果が高いこと。
また、筋肉の緊張をやわらげ、血流を良くすることで、疲れや筋肉痛を予防することができます。運動後のクールダウンにもおすすめです。

反動をつけて行うストレッチを「バリスティックストレッチ」と言います。
イメージしやすいのは、アキレス腱を伸ばすストレッチです。グッグッと反動をつけて行った記憶がある人もいるのではないでしょうか。

バリスティックストレッチは、反動を使うぶん、スタティックストレッチよりも筋肉を伸ばす効果が多く得られます。
しかし、急激に筋肉を引き伸ばす動きでもあるため、筋肉や腱を痛めやすく、あまりオススメできません。
動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)体を動かしながら筋肉を伸ばしていく方法を「動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)」と言います。子どもの頃よく行ったであろうラジオ体操も、動的ストレッチのひとつです。
ラジオ体操第一は、わずか3分ほどの運動の中で、頭のてっぺんから、前後、左右、上下とひと通り身体を動かすようにできています。それほどハードな運動ではないですが、非常にバランスがとれている。普段使わない背筋に力を入れるような動きを、体操の中では何回もやることになります。結果として、椎間板あたりを支える筋肉がトレーニングされることになって、姿勢がしっかりしてきます。
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体を動かしながら行うため心拍数が上がり、カラダが温まって筋肉がスムーズに伸びやすくなります。
トレーニング前のウォームアップとして、ジョギングやなわとびといった軽い有酸素運動やヨガフロー、あるいはスクワットなどの筋トレメニューを行う人がいますが、これも動的ストレッチの一種と言えます。

・関節可動域アップ ・起床時
・お風呂上がり
・就寝前 ダイナミックストレッチ ・筋温上昇
・体温上昇
・関節の滑走性アップ ・ランニングやトレーニングなどの運動前
目的に合わせたストレッチを選ぼう
ケガを防ぐため、準備体操の一環としてストレッチを行うことは、皆さんご存知の通り。しかし、どのストレッチを行うかは目的とシチュエーションによります。
運動前におすすめなのは「動的ストレッチ」昔は、筋肉の柔軟性を高める静的ストレッチを行うことで、ケガを防ごうという考えが一般的でした。しかし、さまざまな研究で、運動前の静的ストレッチにケガを防ぐ効果は期待できないという結果が出ています。
その理由は、静的ストレッチには筋肉の柔軟性を高める効果はありますが、可動域(動かせる部分)は小さくなるから。
足を大きく振り上げる、腕を大きく回す、股関節を大きく回すなど、勢いよくカラダを動かしたときの可動域の広さを「動的柔軟性」と言います。静的ストレッチを行うことで筋肉の柔軟性は高まりますが、筋力との関係により動的柔軟性は低下し、運動中のパフォーマンスダウンへとつながることもあります。
そう考えると、運動前に静的ストレッチを行う必要性はなく、むしろカラダを動かしながら筋肉を伸ばす「動的ストレッチ」が効果的と言えるでしょう。
もちろん目的があって行うのであれば構いませんが、ケガを防ぐためというのであれば、運動前の静的ストレッチはオススメしません。
運動後は「静的ストレッチ」がおすすめ運動後のストレッチは、疲労した筋肉の状態を回復せるために行われることが多いでしょう。その場合、静的ストレッチが適しています。
ゆっくり筋肉を伸ばすことで、心身ともにリラックスすることができます。
1ポーズ20秒は行おうこのとき、短時間でパパッと部位のみ伸ばすのは効果的ではありません。実際の研究でも、15秒程度の静的ストレッチだと疲労回復効果がないという結果が出ているものも。
せっかく行うのであれば、ゆっくりと時間を取りましょう。痛みや硬さなど、運動後のカラダの状態を注意しながら行うようにしてください。
ひとつの姿勢で最低20秒、時間が許す限り長い時間をかけ、また何回も繰り返します。
大切なのは呼吸を止めないこと。筋肉に酸素を行き渡らせなくてはいけないのです。また、筋膜リリースとは違い、静的ストレッチでは痛みが出るまでは筋肉を伸ばしません。無理すると、かえって筋肉を損傷してしまう可能性があります。心地よいと感じるところで、できるだけ長い時間その姿勢を保ってください。
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カラダを柔らかくしたい人は、静的ストレッチが最適です。
静的ストレッチは、カラダが温まって体温が上がっているときに行ったほうが高い効果を得られます。運動後やお風呂の後などに行うとよいでしょう。
ゆっくりと痛みのない程度に行うしかし、カラダを柔らかくしたいからといって、痛みを我慢してまで無理に伸ばすのは避けてください。筋肉は、急に伸ばされて痛みを感じると、危険を感じて縮まろうとします。(伸張反射)
柔軟性を高めるためには、この伸張反射が起こらないよう、ゆっくりと痛みのない程度に動作を行うことが大切です。
呼吸も止めずに行いましょう。
ストレッチを習慣化することで、疲労回復をサポート
ストレッチは、定期的に継続して行わなければ効果は低くなります。運動前後だけでなく、日頃からストレッチを習慣づけることで、カラダの調子も良くなるでしょう。
[筆者プロフィール]
和田拓巳(わだ・たくみ)
プロスポーツトレーナー歴16年。プロアスリートやアーティスト、オリンピック候補選手などのトレーニング指導やコンディショニング管理を担当。治療院での治療サポートの経験もあり、ケガの知識も豊富でリハビリ指導も行っている。医療系・スポーツ系専門学校での講師のほか、健康・スポーツ・トレーニングに関する講演会・講習会の講師を務めること多数。テレビや雑誌においても出演・トレーニング監修を行う。現在、さまざまなメディアで多くの執筆・監修を行い、健康・フィットネスに関する情報を発信している。日本トレーニング指導者協会(JATI-ATI)の認定トレーニング指導者
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<Text:和田拓巳&編集部>