西九州新幹線開業に合わせて、JR九州は新たなD&S列車(観光列車)の運転を開始した。列車名は「ふたつ星4047」。西九州新幹線を軸に佐賀・長崎エリアを走る在来線の活性化を図るのが目的の列車だ。午前便と午後便でルートを変え、武雄温泉と長崎の間をゆったりと走る。さっそく試乗してきたのでレポートしよう。
「ふたつ星4047」とは?

JR九州の豪華クルーズトレイン「ななつ星in九州」は、九州にある7つの県を周遊することから命名された。今回は、長崎県と佐賀県という2つの県を周遊し、車窓からは有明海と大村湾という2つの海を眺めることができることから、「ななつ星」にあやかって「ふたつ星」と命名された。

4047とは、使用される車両がキハ40およびキハ47という2種類のディーゼルカーであることに由来する。読み方は「よんまる よんなな」だ。「西九州の海めぐり列車」というようにテーマは「海」である。


列車は3両編成。1号車と3号車は普通車指定席で真ん中の2号車は「ラウンジ40」と呼ばれる共用スペースで車内販売を行うサービスカウンターがある。座席は2人掛けのクロスシートをメインとしながらも、窓を向いたソファ席やカウンター席も備えている。
近郊型車両を改造したものなので、ドア近くには窓が小さな「はずれ席」もあるが、絶景区間などでは2号車のフリースペースに移動することもできるので、柔軟に対応したい。

種車は、2022年3月まで運行していた「はやとの風」2両と「いさぶろう・しんぺい」に使われていた3両のうちの1両。「はやとの風」では漆黒の塗装だったものを正反対のパールメタリックという白い塗装にした。
チタンを使った金色のラインがアクセントとなっていて、使い古した車両を大改造したとはとても思えない。
午前便は、武雄温泉駅を出発し、江北(3月22日までは肥前山口駅)駅から長崎本線に入り、有明海を眺めながら、諫早を経て長崎へ。そして、午後便は、長崎駅を発車して、大村湾に沿った別ルートで武雄温泉駅を目指す。今回は午後の列車に乗車したので、長崎駅から武雄温泉駅までの旅を詳細にレポートしてみよう。
長崎本線旧線の絶景区間を走る

長崎本線の諫早と長崎の間は、これまで特急「かもめ」が走っていた長大な長崎トンネル経由でショートカットとなる新線と明治期に完成していた旧線があるが、「ふたつ星4047」は旧線を経由する。時間はかかるけれど、大村湾の車窓が存分に楽しめるからだ。

浦上駅を過ぎると、単線非電化の旧線を進む。山深いところを走るが長崎市内の住宅地なので人家が目につく。勾配を喘ぎながら登っていき、サミットを過ぎると大村湾が遠くに見え始め、列車は軽やかに山道を下りながら海岸を目指す。大草駅を通過すると大村湾に沿って走る。ここから喜々津までが最初の絶景区間だ。
車窓をゆったりと楽しむために徐行する区間もあり、大村湾の車窓を心ゆくまで体感することができる。
特製のスイーツを味わう時間
諫早駅に停車した後は、長崎本線に別れを告げ、大村線に乗り入れる。2号車では、長崎名物のスイーツであるスフレの販売が始まったというので出かけてみた。午前便では特製弁当の販売があるけれど、午後便は走る時間帯のためか、お弁当ではなくスイーツを販売する。

長崎スフレ(900円)というのは、長崎市内の洋菓子店「ママン・ガトー」でしか食べることのできない人気メニュー「熱々スフレ」を「ふたつ星」での車内販売用にアレンジしたものだ。卵白と砂糖を混ぜて焼くことでパンのように膨らむ。
冷めるとしぼんでしまうので、出来立てをすぐに食べないと本当のおいしさが分からないかもしれない。ともあれ、すぐにラウンジのテーブル席で車窓を楽しみながらいただいてしまおう。数量限定で事前予約必須なので、乗車が決まったら注文はお早めに!

他には、雲仙で人気のアイスソルベ(果汁やシロップを凍らせた氷菓)や武雄市のイタリア料理店でつくった武雄産のレモングラスを使用した焼き菓子カントゥッチなどおいしそうなものをいくつも売っていて目移りしそうだ。
大村湾を一望できる千綿駅で小休止

その間に列車は大村駅、西九州新幹線との接続駅・新大村、新幹線の車庫がある大村車両基地駅を通り過ぎていく。松原駅を出たあたりから、大村湾に沿って走る。このあたりも絶景区間だ。そして、大村湾に面してホームがあることで知られる千綿駅で小休止する。停車時間は10分。

海をバックに記念写真を撮ったら、レトロな木造駅舎を通り抜け、駅前広場に行ってみよう。地元である東彼杵の新名物のくじら焼きを売っているからだ。これは、くじらの形をした鯛焼きで、そのぎ茶との相性が抜群というけれど、もちろんふつうのお茶と一緒に食べてもおいしい。
駅前に停車しているCHANOKO号という移動販売車でくじら焼きを買っているうちに発車時間が迫ってきたので、食べるのは車内だ。結構ボリュームがあり、ひとつで充分かもしれない。

旅の終盤は車内イベントに参加

地元の人たちに見送られて千綿駅を出発。しばらく大村湾に沿った車窓を堪能したあと南風崎(はえのさき)で運転停車する。太平洋戦争終結後、戦地から引き揚げてきた人がこの駅から列車で全国に帰還したことで有名になった駅だ。
川のようにも見える早岐瀬戸(きわめて狭い海峡)の対岸にヨーロッパ風の堂々たる建物が現れるとハウステンボス駅に停車する。もちろん、下車してハウステンボスに行くことも可能だ。

佐世保方面への分岐駅である早岐を過ぎる頃に2号車で車内体験のイベントがあるというので出かけてみた。波佐見焼の転写体験である。波佐見焼と言うのは、大村線、佐世保線、西九州新幹線で囲まれた内陸部に位置する波佐見町(長崎県)で産する陶磁器のことで近年富に人気が出てきた焼き物である。

用意された無地の焼き物に転写ステッカーから好みのイラストをいくつか選び、水に浸したキッチンペーパーの上に切り抜いておいたシールをのせ、紙だけ引きぬいて、透明なシール部分を焼き物の上に貼っていく作業だ。出来上がったものは、持ち帰り、飾り皿として活用できそうだ。
夢中になっているうちに、列車は有田に停車し、終点の武雄温泉駅に向けてラストスパートしていた。
長旅は武雄温泉駅で幕

右側から真新しい西九州新幹線の高架橋が近づいてくると武雄温泉駅に到着。3時間もの長旅だったが、車窓を楽しみ、食を味わい、停車駅での地元の人との交流や車内イベントといった盛沢山の内容を体験しているとあっという間に過ぎてしまった。

西九州エリアを開通間もない西九州新幹線と「ふたつ星4047」の乗り比べを体験しつつ周遊すると充実した鉄道旅を楽しむことができるであろう。
取材協力=JR九州
執筆者:野田 隆(鉄道ガイド)