
東日本大震災による津波で、水素爆発・炉心溶融を起こした福島第一原発。その南にあり、事故は起きなかったものの2021年から廃炉作業が始まった福島第二原発。2つの原発に挟まれるように位置するのが、福島県双葉郡の富岡町だ。
一時は全町民が避難
2017年3月までの約6年間、全町民が避難を強いられた富岡町。現在は北東部の一部を除いて避難指示区域が解除され、住民の帰還も進む。
しかし、生活のすべてを奪われ、故郷に戻っても元通りの暮らしが営めるわけではない。そんな中で、それまでの富岡町にはなかった新しい挑戦も始まっている。ワイン専用のぶどう栽培だ。
ワイン用ぶどうの生産に挑戦

富岡町民の有志10名を中心に「とみおかワイン葡萄栽培クラブ」が結成されたのは、2016年3月。町内2ヶ所に約200本ずつの試験栽培を始めた。日本の国産ワインは最近注目を集めており、国際的な評価も上がっているが、ぶどう栽培やワイン生産の歴史が古いのは山梨県だ。
しかし、温暖化の影響で甲府盆地の年平均気温も上昇。ぶどうへの悪影響も懸念されている。そこで、標高の高い長野や高緯度の北海道など、涼しい地域でのワイン用ぶどう生産が急がれているという。
夏涼しく、昼夜の寒暖差も大きい福島県浜通り地域でのワインぶどう生産には、こうした追い風も吹いている。
さらに2018年11月には、一般社団法人とみおかワインドメーヌを結成。ドメーヌとはぶどう栽培からワイン生産までを一貫して行う蔵元のこと。醸造を担うワイナリーづくりはこれからだが、目標はすでに明確だ。
海沿いの気候を活かして

取材班が訪れたのは、JR富岡駅を見下ろす高台にある小浜圃場。ぶどうは、ちょうど花が開いた状態。花といっても花びらはなく、この小さな一粒一粒が果実となる。
海に隣接しているため、太平洋からの潮風や海霧など内陸の畑とは異なる気候条件も多いそうだ。塩害も心配になるが、これまでのところ生育に悪影響は出ていない。
一般的に、ワイン用ぶどうは食用のぶどうと比較して皮が薄い。しかし、とみおかワインドメーヌのぶどうは皮が厚くなる傾向があるという。
担当者は、「潮風などの影響で、植物の防衛本能から厚くなるのかもしれませんが、ワインの香り成分はじつは皮の部分に多く由来する。独特な香りのワインになりそう」と期待を込める。
世界には、米カリフォルニア州のソノマやイタリアのアマルフィなど、海が近いぶどう畑から極上のワインを醸し出す地域も。崖下の海からの爽やかな風のおかげで晴天でも体感温度はそれほど高くなく、まるで地中海のような雰囲気だった。
世界に発信できる食文化を

とみおかワインドメーヌでは、今年3月までに町内3ヶ所の畑に4,993本のぶどうを植え付け。総面積は1.76haに及ぶ。その中で最も多いのは白ワイン用のシャルドネ。仏・ブルゴーニュ地方を代表する品種として、広く知られている。

メルローなど赤ぶどうも育てているが、シャルドネの他、ソーヴィニョンブランやリースリングといった白ぶどうの割合が多いのは、世界屈指の漁場である地元・常磐沖の海産物とのマリアージュを楽しんでほしいため、とのこと。
新しく誕生するワインともともとあった地元の食材が融合し、住民の帰還が進む町に世界に発信できる新しい食文化が生まれることを意図している。
ワイナリー化もめざす

ワイン用ぶどう産地としてはまだ新しい福島県浜通りで、挑戦が始まったばかりのとみおかワインドメーヌ。2021年度の試験醸造では、フルボトル・ハーフボトルを合わせて564本を醸造。一般販売できる量ではないため、クラウドファンディング参加者に頒布した。
畑の拡大に伴い、2022年度はフルボトル換算で1,500本分ほどの収穫を予定。ただ、商業ベースに乗るのは3,000本程度からとのことで、ゆく道はまだ遠い。現在は山梨県のワイナリーで委託醸造しているが、「ドメーヌ」と名乗るとおり、将来的にはワイナリー化を目指している。
ミスコンファイナリストも視察

26日には、今年始まったミスコン「ミス・ギャラクシーオブビューティー」のファイナリストも小浜圃場を視察。ワインにも造詣が深いファイナリストたちは、担当者も熱くなるほど本格的なワインについての質問を重ねていた。
(取材・文/Sirabee 編集部・タカハシマコト)