天然痘(痘そう)とは……大流行の歴史と根絶
天然痘(痘そう)は、昔は「死に至る疫病」、「美目定めの病」などと呼ばれていました。非常に感染力が強い上に特効薬もなく、死亡率が20~50%にも及ぶ感染症で、かつて大流行したこともあります。
1958年にWHO(世界保健機関)は「世界天然痘根絶計画」を決定し、世界で天然痘の封じ込め作戦が行われました。その甲斐あって、1980年5月に地球上から天然痘が根絶されたと宣言しました。
天然痘は人類が根絶することに成功した唯一の感染症です。かつての天然痘の症状・死亡率とともに、現在報告されているサル痘についても触れたいと思います。
天然痘の症状・感染経路・潜伏期間・死亡率
天然痘は、ツバや痰で感染が広がる飛沫感染です。感染から発症までの潜伏期間は7~16日です。
主な症状は、
・突然の発熱
・吐き気、嘔吐、意識がなくなる意識障害
・発熱から3~4日目に一時解熱し、発疹が出現
です。
天然痘の発疹は体中に出ます。発疹は赤い紅斑、盛り上がった丸い湿疹である丘疹、水をもった湿疹である水泡・膿疱、カサブタである結痂(けつが)、皮膚がめくれる落屑(らくせつ)と、水疱瘡に似たものが見られます。発疹の出現時に、再び発熱と痛み、暑い感じが起こります。
死亡率は20~50%で、特効薬はありません。有効なのはワクチンによる予防です。
サル痘とは……天然痘に似たウイルス・症状・死亡例・予防法
天然痘は地球上から根絶されましたが、似た疾患として挙げられるのが「サル痘」です。サル痘は、天然痘ウイルスに似た、ポックスウイルス科ウイルスであるサル痘ウイルスによる感染症で、感染症法では4類感染症に指定されています。
主にアフリカ中央部から西部にかけて発生しており、症状は主に発熱と発疹です。多くは2~4週間で自然に回復していますが、小児では重症化例や死亡例も報告されています。
サル痘ウイルスは、ウイルスを持ったげっ歯類の動物に咬まれることや血液・体液・発疹との接触によって感染するとされ、人から人への感染はまれです。
サル痘の潜伏期間は5~21日(通常7~14日)とされ、症状は、発熱、頭痛、リンパ節腫脹、筋肉痛などが1~5日続き、その後発疹が顔から体に広がってきます。発疹は平坦、水疱、痂皮化してから2~4週間で治ります。致命率は0~11%程度とされています。
治療法は特になく、症状に応じた対症療法になります。抗ウイルス薬が動物実験で有効性が報告されているものもありますが、国内では承認されている薬はありません。予防は、標準予防策で、マスク着用、手指衛生になります。
天然痘ワクチンはサル痘予防にも有効です。しかし、日本では1976年以降、天然痘ワクチンの接種は行われていません。
天然痘ワクチンの予防接種の時期・回数・副作用
筆者は天然痘根絶前に生まれましたので、肩に予防接種の跡が残っています。日本では1976年に天然痘ワクチンが中止されました。当時は生ワクチンで、天然痘のワクチンを「種痘」と呼んでいました。
接種は多刺法といって、二又の針を使って、上腕筋肉の辺りにワクチンを植えつけるような感じで行われていました。今のBCGのようなイメージです。1回接種です。
現在は天然痘は根絶されましたので、予防接種を受ける必要はなく、世界中でワクチン接種は行われなくなっています。
天然痘ワクチンの副作用……発熱・発疹・リンパ節の腫れ
副作用は熱性けいれん、接種後10日前後に発熱、発疹、脇のリンパ節の腫脹があります。
1976年までに使用されていたワクチンでは、接種した人の10万~50万人に1人に、脳などに見られる中枢神経合併症があって、その致死率は40%にもなっていました。
しかし、現在日本で開発されているLC16m8株は安全性が高いワクチンです。
天然痘ワクチンはバイオテロに備えての国内備蓄も
地球上から根絶したとは言え、かつてはこれによって全滅した部族もあるほど、恐れられていた病気です。バイオテロに備え、日本ではワクチンが国家備蓄されています。根絶されたとはいえ、知識としてじこのような感染症があったことと、ワクチンがあることを、ぜひとも知っておいてください。
小児科医・アレルギー専門医。京都大学医学部卒業後、日本赤十字社和歌山医療センター、京都医療センターなどを経て、大阪府済生会中津病院にて小児科診療に従事。論文発表・学会報告多数。診察室に留まらず多くの方に正確な医療情報を届けたいと、インターネットやテレビ、書籍などでも数多くの情報発信を行っている。
執筆者:清益 功浩(医師)