山口県阿武町で、国の臨時特別給付金、合わせて4,630万円が24歳の男性に誤って振り込まれた問題。町からの返還要請に応じず、「オンラインカジノで使った」などと供述している容疑者は、18日夜に逮捕されている。
萩市に囲まれた小さな町
テレビやインターネットで、連日のように報じられたこのニュースで、「阿武町(あぶちょう)」という名前を初めて知った人も少なくないのではないだろうか。
山口県の日本海側で、まるで萩市に取り囲まれるように位置する阿武町。じつは、2005年、いわゆる「平成の大合併」で阿武郡の2町・4村が萩市と合併したが、阿武町だけは合併協議から離脱したため、このような形となった。
2022年現在、人口は3,000人に満たないが、じつは肉マニア垂涎のとんでもない牛肉を生産する、すごい町だったのだ。
全国でわずか200頭の和牛

和牛というと、その生産量の約95%を占める黒毛和種が有名。霜降りが入った柔らかい肉質で、日本が誇る肉のブランドだ。また、昨今の赤身肉ブームも追い風に、熊本県や高知県で生産される褐毛和種(あか牛)も注目を集めている。
同じく、赤身が美味しいと評判なのが、岩手県北部や北海道の一部で生産される日本短角種。ところが、公正取引委員会が認定する和牛の品種は4種あり、残るひとつが無角和種(むかくわしゅ)。全国でわずか200頭前後しか飼育されていない、超貴重な和牛だ。
その200頭のうち約140頭を飼育しているのが、阿武町なのである。Sirabee編集部は、阿武町農林水産課の担当者に話を聞いた。
歴史は大正時代から

無角和種の歴史は、大正9年(1920年)に遡る。英国から移入された角がないアバディーン・アンガス種と日本在来の黒毛和種との交配で誕生し、その後改良が進められて昭和19年(1944年)に無角和種と命名された。
当時の牛は、農耕・運搬なども重要な用途だったため、角がなく危険性が低い牛は重宝され、最盛期には1万頭が飼育されていたという。しかし、高度経済成長期以降は農業の機械化が進み、食肉としてもサシが入りにくい肉質が敬遠されたために飼育数が激減し、今に至っている。
毎月3頭だけ出荷
赤身肉ブームで、あか牛などは地元ぐるみでPRをしているが、それと比べても「飼育数が桁違いなので...」と語る農林水産課の担当者。約140頭が飼育されているうち、阿武町で毎月食肉として出荷されるのはわずか3頭。およそ600kg程度だ。
そのうち0.5頭分を町が買い上げて、道の駅で販売したり、ふるさと納税の返礼品にするなど活用している。担当者は「赤身には肉本来のうま味があり、脂の甘さもあって、美味しい牛肉です」と胸を張る。
先祖のひとつ、アバディーン・アンガスは、肉質の高さで世界的に評価されている牛でもある。
ふるさと納税は増えていないが...

今回の報道で「阿武町」という名前を耳にした人からふるさと納税が寄せられていないかも聞いてみたところ、町の担当者は「今のところとくに影響はない」と語る。
たとえば、ふるさと納税ポータルサイト「ふるさとチョイス」では、約500gの肩ロースブロック肉が返礼品として紹介されている。町の外ではほぼ手に入らない激レア牛肉を食べられる機会なので、応援も兼ねて検討してみるのもよさそうだ。
(取材・文/Sirabee 編集部・タカハシマコト)