
書いたひと
オリタ タクヤsio株式会社で働く仕掛け人。おいしいで課題解決し幸せの分母を増やすために、おいしいをつくるための思考=sioのイズムを宣教しています。料理人でもあり、おいしいものが大好き。
sioのイズムとは「レシピに頼らない、おいしい作りの感覚」
僕たちの料理に、基本的にはレシピはありません。おいしいのゴールイメージを全員で共有することで、味を管理をしています。……それはなぜか。食材のコンディションなどで味わいが変わってしまうことがあるなかで、レシピで味を管理することは危険だと考えるからです。オーナーシェフである鳥羽周作は、おいしいの公式を無数に持っています。これを僕たちは”sioのイズム”と呼んでいます。おいしいとは、人それぞれの感覚的なもので目に見えないものですが、sioのイズム(公式)を絵に書いてご説明してみます。これが頭に入れば、きっと少し料理が楽しくなりますよ!
sioのイズムにはいろんな公式があるのですが、今回は「5味+1」の考え方に絞ってお伝えします。
5味のバランスで作りだす「おいしい」とは
5味とは、味覚を構成する「甘味、塩味、酸味、苦味、うま味」の要素のことです。※ちなみに、米パデュー大学の2015年の研究で、5味に続く第6の味覚として「脂味(脂肪味)」があることが確認されているのですが、今回は馴染み深い5味をベースに話を進めていきます。
下の図のように、底面は酸味・甘味・苦味の三角形。頂点は旨味、そのすぐ下に塩味という、味のバランスを考える上で、僕らが常に意識している概念のことです。
「+1」は、香りや刺激や食感などのこと。基本の5つの要素で構成したベースに+1を加えることで、さらに上のおいしいを作りだすんです。
オリタの手書きですいません!
「5味+1」の概念は、sioが最も大切にしている塩の使い方を理解するためにも欠かせません。ちなみに「sio」という店名は、塩加減を大事にしていること、そして、オーナーシェフ鳥羽の名前である『しゅうさく いつも おいしい』の略から来ています(笑)。
最も大切な塩の役割
5味における塩の役割はこのふたつ。・旨味の女房(引き立て役)
・酸味や甘味の友だち(高めあったり、咎めあったり、近い関係性)
塩は、旨味を底支えし、酸味と手を繋ぎ、甘味に表情をつけることができます。基本的には、5味の四面体のなかにあるものであり、塩は影の存在でなければありません。明るすぎる光は目に入ると痛いのと同じで、塩が目立ちすぎてはいけないのです。
「5味+1」の概念は、sioが最も大切にしている塩の使い方にも通ずるお話。ちなみに余談ですが、sioの店名は『塩加減を大事にしていること』、そして、オーナーシェフ鳥羽の名前である『しゅうさく いつも おいしい』の略から来ています(笑)。
料理を因数分解し、組み立てる
ご説明した「5味+1」の概念は、具体的にどんな風にメニューに落とし込まれているのか。パーラー大箸のメニューを例にとって掘り下げてみます。まずパーラー大箸には、お箸でも食べられるあの懐かしい洋食に、僕らのイズムを搭載してよりおいしく召し上がっていただきたいという思いがあります。老若男女が故郷を感じることができるけれど、味の面では懐かしさを超える劇的においしい洋食屋さん、を目指しているのです。
今回はその中でも特にこだわりがある、洋食の定番、海老フライを。
洋食屋さん、海老フライ専門店、市販の海老フライなどいろいろ食べましたが、うちの海老フライはかなりおいしいです。もちろん、“sioのイズム”、5味モデルの考え方を取り入れているからです。
「まずどんな料理に対しても、ゴールイメージを明確にすることが大事だ」とシェフはよく言います。味わいの要素を細かく分けて考える作業、因数分解をしながら考えてみましょう。 海老フライの構成要素は、3つ。
海老……ぷりっぷりの大きい海老
衣……サクサクでキレの良い衣
ソース……酸っぱ甘い自家製タルタルをたっぷり
言葉にすると、『サクサクな衣の旨味(脂味)と、ぷりぷりな海老の旨味を、酸っぱ甘いタルタルで楽しむ。この旨味たちを、酸が心地よく喉に流してくれる』。これが、パーラー大箸の海老フライのゴールイメージです。
ここで重要なのは下味の塩。海老の甘みを引き出し、ソースと共存できる塩分濃度にもっていく。やはり塩は影でなければなりません。それでいてこそ、タルタルが口の中で踊り出すのです。
塩があるからこそ酸っぱさが活き、そこにハチミツの甘さが入ることでコクが出ます。5味モデルをイメージしながら料理を考え、うまく当てはめていくと、奥行きのある味わいに仕上がっていくでしょう。この5味モデルは立ち帰る目印のようなもので、これさえあれば味が迷子にならないのです。
コース料理ではどうなる?
ひとつの料理の構成の次は、コース料理ではどういった形で提供しているのか、当てはめてみます。実際にsioのコースで出している「鮭、ふきのとう、ホワイトアスパラガスを使用したリゾット」ご説明します。シェフいわく、「sioのフレンチの定義は、レイヤー」です。つまり、重なりがある料理となります。このリゾットは、イタリアンでもあり、フレンチでもあります。両方のレストランで修行を重ねたシェフならではのハイブリッドな料理。そういった料理が数多く存在するんです。
このリゾットも因数分解してみると……
旨味……パルミジャーノ、ミモレット、カラスミ
苦味……ふきのとう、ホワイトアスパラガス、トレビス
甘味……西京味噌
酸味……トレビスをサラダ仕立てに
塩味……鮭、西京味噌、チーズ、カラスミなど
+
辛味……七味
食感……トレビスのサラダ、ホワイトアスパラガス、キャラメリゼしたナッツ、アルデンテの米
こんな感じ。旨味の三層のレイヤーに、苦味を三層重ねています。さらに、それを包む甘味、心地よく流す酸味。そして、輪郭をつける塩味で構成されています。5味モデルがあるからこそ、料理の構成を理解することができるのです。
バランスよく配置することで、sioらしさが最も詰まった5味+1を作るためには、5味モデルに当てはめることが必要不可欠です。そして感動的なおいしさとは、今まで体験したことのない5味モデルの形である、と思っています。
僕たちレストランができること、したいこと
ただおいしいではなく、感動する美味しさを食べていただきたい。そう思って僕たちは料理を作っています。もちろん、自宅での料理のハードルが上がってしまうことは僕たちがやりたいことではありません。この5味モデルを知っていることで、例えばキャロットラペにオレンジやはちみつを加えるなどを思いついたり、新しい組み合わせを試してみる人が出てきたら。それによって、人参が食べやすくておいしい、これまで食べなかった子ども達が喜んでいる、と食卓に笑顔が増えたら。更にそこにクミンで香りを追加してみよう!わぁ、本格的な味になった!と発見してもらえたら。
料理の可能性が広がり、食べることの楽しさが増したら嬉しいなと思っています。僕たちは、幸せの分母が増えたらそれで良いんです。
ご紹介した(今回は5味モデル)、sioのイズムの使い方が分からなければ『#おうちでsio 』とハッシュタグをつけてTwitterやInstagramに投稿してみてください。僕たちがかならず見つけて、お答えします。
“この時代だからこそ、なんでもやろう。”
“対面式ではなくても、お客様を喜ばせることができる。それが本質的なレストランの存在意義だ。”
僕らはそう思いながら、日々いろんなことにチャレンジしています。