朝晩の寒さが身に染みるようになったこの時期。東京や名古屋、大阪でも最高気温が12月並みを記録する日があり、早くも温かな食事が恋しくなってきた。この季節、酒飲みであれば食指が動くのが「おでん」。よく味の染みた大根に日本酒の熱燗は、飲兵衛にはテッパンの組み合わせだろう。

今、この「おでん」のバリエーションが広がっている。昔から日本人に馴染み深いカツオ&昆布のだしで煮込まない、「イタリアおでん」や「鶏だしおでん」など、ニューカマーが登場中。酔客の心を満たしているというのだ。
錦糸町のイタリアンバール「クインテット」のボリートミスト
錦糸町のイタリアンバール「クインテット」でおでんといえば、豚バラ肉の塊、チキンサルシッチャ(肉の腸詰め)、ロール白菜の入ったボリートミスト。イタリア・ピエモンテ州の郷土料理で、肉や食肉加工品(シャルキュトリー)を鍋に入れ、グツグツと煮込んだ料理のことだ。
「ウチのスペシャリテは、フィレンツェの名物料理・ランプレドット(牛もつの塩煮込み)。ほかにも牛頬肉の赤ワイン煮込みや、牛すじカレーも提供しているので、それらを仕込んだ際のスープを合わせて、ボリートミストの煮汁にしています。鶏ガラとブイヨンも加えて仕上げているため、旨味が強いんですよ」と、店舗統括担当の佐藤雅俊さんは話す。
肉の塊がゴロゴロ入ったボリートミストは、まさに欲望を掻き立てられる外見。スープには、牛、豚、鶏のさまざまな部位の旨味が溶け、これだけでも思わず杯が進んでしまう。牛バラ肉は食べ応え十分で、ロール白菜は口の中でホロリと溶けるやわらかさ。サルシッチャのスパイシーな味わいが、これまたワインを呼ぶのだ。薬味のバジルペーストで味を変化させると、なお口に楽しい。
フォアグラ大根、トマトチーズなどの創作イタリアおでんも
またボリートミスト以外にも、フォアグラ大根、トマトチーズなどの創作イタリアおでんをオンメニュー。ボリートミストと同じスープで煮込んだ大根やトマトのおでんは、素材のみずみずしさを残しながらも、どこまでも滋味深い。ワインはイタリア、フランス産を中心に約30種が揃うので、煮込みで蒸気した頬を冷やしながら、心ゆくまでイタリア郷土の味を楽しむことができる。
▼クインテットのボリートミスト
牛バラ肉、自家製チキンサルシッチャ、ロールキャベツならぬロール白菜の入ったイタリア・ピエモンテ州の郷土料理。日替わりのラインナップから、3種盛り合わせで注文する。1200円(税別)
鶏だしの白い煮汁で味わうジューシーなおでん
またありそうでなかった「鶏だしおでん」に特化するのが、4年前に中目黒駅高架下にオープンした「鶏だしおでんさもん」だ。
カウンターの真ん中に鎮座する、特大おでん鍋を覗き込むと、見渡すかぎりの白色。厳選した銘柄鶏の鶏ガラと手羽先に香味野菜を合わせて煮込んだ白濁のスープが特徴的で、ちくわ、鶏つくね、海老しんじょなど定番のおでんだねを煮込んでいる。
一番人気は、やはり大根。鶏の滋味が溶けたスープはまろやかだが、しっかりと脂の旨味がある。この脂質が適度に大根の表面をコーティングし、噛み締めた途端、口の中にジューシーなおいしさが広がる。大根は煮込んだ後、必ず一晩寝かせて提供するというから、鶏だしの味もよく染みている。
これに合わせるなら、やはり日本酒。フルーティな味わいの純米吟醸の燗酒なら、大根の新鮮な味わいに寄り添ってくれるだろう。また大根は季節ごとに産地を替えるこだわりようで、冬にかけて旬の三浦大根が入ってくる。
「ウチは名古屋発祥のお店なので、テーブルには辛子以外に、八丁味噌もスタンバイしてます。大根やはんぺん、がんもどきなどに合わせると、より酒がすすみますよ」と店長の小川陽さんが、アドバイスしてくれる。
厳選した銘柄鶏を鶏だしで煮込んだ鶏串おでんも
また厳選した銘柄鶏を鶏だしで煮込んだ鶏串おでんも、こちらの名物。焼き鳥をつまむ感覚でパクつけるため、あっさりした後味で部位ごとの味わいの違いも存分に楽しめる。ももはとろけるほどジューシー。三角軟骨の骨まわりの身のやわらかさは、焼き鳥では体感できない味わいだろう。他にもポテトサラダは、おでんのじゃがいもを注文ごとにマッシュして提供する一品で、クリームチーズと明太子の濃い味つけが酒飲みにはたまらない味わいだ。
おでんを「煮込む」という概念で考えれば、バリエーションは大きく広がる。以上の2軒を参考に、この秋は暖を求めて、自分だけのおでん店を探してみては。
▼鶏だしおでんさもんの大根
白濁した鶏だしに、大根が鎮座する外見が唯一無二。みずみずしさを楽しむのもいいが、八丁味噌でこってりといただくのもよし。飲み物は日本酒のほか、サワー、ハイボールも人気。290円(税込み)
おでんの歴史は変化の歴史?

おでんのルーツは、室町時代の豆腐田楽。これがこんにゃく田楽などに派生して、江戸時代には屋台で燗酒と食される、庶民の味に。今のおでんの起源、醤油味のだしで煮込むスタイルは、明治時代の東京で登場した。
庶民の味だったこともあり、気軽さがウリのおでん。ロールキャベツもすっかり定着したように、煮込めばOKという懐深さもある。縛りがユルいからこそ、イタリアおでんなど、続々と変わりおでんが登場するのだ。
<取材・文/岡野孝次 撮影/赤松洋太>
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