
幸食のすゝめ#082、玩具の街には幸いが住む、立石。
2018年暮の葛飾区立石、クリスマスを目前にした12月の22日。今や開発で半分の大きさになってしまった「呑んべ横丁」がある側の出口から葛飾区役所に抜ける区役所通り商店会に、たくさんの人たちが集っていた。

「今、何やってる?一緒にやんない?」、そんな電話のひと言から始まった立石のヌーヴェルバーグ『二毛作』の物語。
立石仲見世で30余年以上続くおでん種専門店『丸忠蒲鉾店』の二代目日高(寿博)さんの電話の相手は、もう1人の主役、西村さんだった。
地元で育ち、髪を切りに行く場所も一緒だった2人は、酒という共通の趣味で結ばれ理想の店造りに邁進して行く。
小脇に抱えたチャック・ベリーとマディ・ウォーターズのレコードで結ばれた、ローリングストーンズのミックとキースみたいに、2人の距離は急速に縮まって行った。
最初は閉店後のおでん屋の店先に、椅子とテーブルを出し、缶ビールやコップ酒を出すだけだった。
でも、隣りの店舗が空いたことをきっかけに、2人の夢の城がとうとう形になって行く。
2007年、『二毛作』(現在の『おでん丸忠』)のオープンだ。
西村さんが全国の酒蔵を訪ねて集めた、自然に作られた貴重な日本酒。自然派ワインの祭典「フェスティバン」などのイベントに積極的に参加して、先輩たちの薫陶(くんとう)の中、日高さんが集めた自然派のワイン。

やがて2015年に、日高さんが少し離れた京成線の線路脇に新しい『二毛作』をオープン。
店は『おでん丸忠』と改名し、西村さん主宰で再スタートする。
彼のソフトでお洒落なムードと豊富な酒の知識、隣りの『丸忠蒲鉾店』できたてのおでんで、店はますます人気店になって行く。
「お酒のイベントにも、もっと積極的に参加したかったし、地方から同業者の方が訪ねて来てくれたら、もっと一緒に色んな場所を紹介したかった」。
だんだん雇われの身でいることに疑問を抱き始めた夏の終わり、意を決して店を卒業する。
自分だけの夢の城を、生まれ育った立石の街のどこかに完成させるためだった。

今もセルロイド工業発祥記念碑や『タカラトミー』の本社がある立石は、オモチャの街として栄え、キューピー人形などたくさんのオモチャを国内外に送り出していた。
西洋への憧憬に溢れた立石のオモチャは、まさに「文化」そのものだったに違いない。
できる限り自然に作られたワインや日本酒で、立石に新しい「文化」を運んだ西村さんの『ブンカ堂』は、三代目『文化堂』としての正しい継承だったのかもしれない。

街の小さな医院や「ほねつぎ」の看板、昔ながらの商店街は葛飾区役所に向かう通りだ。
そんな中、周囲の風景に一線を画しながら、なぜか妙に溶け込んでいる店が西村さんの『ブンカ堂』だ。

名店から新店へ、世代を越えた街のメンタリティ
木とガラスを多用した外装、赤と青の金魚が遊ぶ瀟洒(しょうしゃ)な白いパネルの中に嵌め込まれた店名の看板。その色に寄り添うように緑色に染められた暖簾。右端には「贈 立石仲見世 宇ち多゛より」の文字。

ここは、天下の名店のお墨付きという訳だ。小中学校の先輩である三代目の愛情と、下町ならではの立石の深い絆。
選び抜かれた酒と、心憎いアテのハーモニー
もちろん、酒の審美眼同様に名高い、西村さんの繊細でいながら力強いアテの数々も豊富に揃う。浅漬けををその場でヨーグルトに和えたひと皿、豚の角煮や生姜焼き、〆サバ、前店から人気だった発酵ソーセージ、ライス抜きのカレーであるカルー…。


細長い変形コの字カウンターを駆け回り、酒を注ぎ、アテをサーブし、厨房もこなす彼のライブを楽しみながら、おいしい酒と気の利いたアテに顔を綻ばせる。

玩具の街には、幸いが住んでいる。

浅漬けのヨーグルト和え 400円
〆サバ 600円
発酵ソーセージ 400円
うの花 400円
生姜焼き 600円、
カルー 400円
チーズ盛り 800円
ナッツ 200円
豚の角煮 650円
各種サワー 400円
本格焼酎 500円
グラスワイン 750円~
ボトルワイン 4,500円~
ビール生 600円
ギネス 550円
ハイボール 550円
日本酒正一合 750円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。
ブンカ堂
〒124-0012 東京都葛飾区立石4-27-903-5654-9633
平日 15:00~24:00、日・祝 15:00~22:00
不定休

この記事の筆者:森一起(ライター/作詞家/ミュージシャン)
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