
真のフランス料理とは何かを教えてくれる、高良シェフの料理とは?
こんなに色気を感じさせるフグは、食べたことがない。皿の上には、厚くぶつ切りにされた、加熱をしていない半透明なフグが盛られ、傍らには揚げたアラが添えられた。

するとどうだろう、フグからの濃密な旨味が滲み出して、ロックフォールの塩気やコクと手を結ぶではないか。そこへコリアンダーの甘い香りが加わって、混ざり合う。
官能に触れる、危ない瞬間に、心が喜び、震える。
フグを、コリアンダーなどでマリネして数日置き、ロックフォールとエシャロット、白ワインヴィネガーによるドレッシングで和えた料理である。
クセの強い、したたかなロックフォールとフグが調和するように、チーズの量を整え、フグを切る厚さを精妙に計算する。

そんなワインが飲みたくなる料理こそ、真のフランス料理である。
「フグを出して、日本酒が飲みたいとお客様に言われたら、僕らの負けです、フグをフランス料理に仕立てて出す意味がない」。
そう高良康之シェフは言われた。

そして一年、待望の店が2018年10月8日に開店した。

あえて銀座を選んだ理由は、と聞けば、「銀座という街は本物じゃないと残れない街です。伝統ある店が多く、お客様も本物を知っている。だからこそ、銀座で勝負したいという気持ちがありました。さらに、『南部亭(日比谷)』、『銀座レカン』とやってきて、(自身のお客様に)銀座のお客様が多いと実感しています。青山や恵比寿のお客様は“銀座にも”行かれているように思うが、“銀座”のお客様は“銀座しか”行かないと感じています。そんな二つの意味合いから、新たに銀座で勝負したい、という気持ちが強かったのです」。
フランス料理の根幹「香り・ソース・素材」を融合し、より太い幹へ
そして料理は、また変化した。『銀座レカン』改装後は素材感を中心に据えて、ソースを少なめにし、より食材の生命力を感じるような、素晴らしい料理を供されたが、今回はその素材感の出し方の深みが違うように感じる。
例えば、鹿肉のロティである。

ソースをからませれば、味と香りに厚みが増して、赤ワインが無性に欲しくなった。堂々たるフランス料理だが、濃縮感だけに走らず、素材感だけに走らず、人の手がかかっているのに自然で、均整美がある。

「『銀座レカン』の頃に取り組んでいた料理は、フランスを強く意識させる、堂々たるフランス料理で、リニューアルの『銀座レカン』では、生産者の考え方や素材感を全面に押し出そうとしました。素材が軽やかに香っていくような感じです。その要素は全部、今の料理でも考えとして持っているのですが、香りは華やかというより、少し図太さをもたせてあげる。味わいも、軽さばかりではなくて、適切な濃度やコクなどを突き詰め、素材とどう向き合うかを追求しました。塩で味を決めるのではなくて、塩で最後に味を調整してあげる。素材から引っ張り出してきた厚みのあるところに、塩の力を借りて整える。今までやってきたよりも、幹が一回り太くなったような感じのソースの作り方をしています」。

噛めば、「ギシッ」と、音が聞こえるかのように歯が入っていく。こんなに凛々しい食感のオマールエビは食べたことがない。

「口に入れていただいて、その時の食感をどうやって引っ張り出すかを考えると同時に、どの味が出てくるかも考えています」。
それだけにどの料理もドラマがある。
口に入れて、香りの変化やソースと素材のエキスとの出逢いに変化があり、それが一層食材の生命力を感じさせるエレガントさにつながり、ワインが恋しくなるのである。
「香りとソース、素材という3つの幹を、同じ太さぐらいにしたい。素材ばかりを出そうとするとガタガタになり、香りを軽やかに持っていこうとすると、素材を柔らかく仕上げて、ソースが落ち込む。それを全部、同じ幹の太さで、一皿の中できっちりと融合させる。次に向かっていく皿なのか、完結させるのか。三種類を整えて表現していきたいと思います」。
深化を続け“熟成”していく『ラフィナージュ』
今、東京のフランス料理は、どちらかというと素材を前面に出す料理が多くなって来た。ソースも軽く、香りも軽い料理が多い。高良シェフのように従来のフランス料理の考えを踏襲しつつ、現代の質の高い素材を、香りやソースの幹とともに太くし、厚みのある料理を生み出そうという人はいない。それには技術もいるし、知見も経験値も必要であるし、しなやかな感性も必要である。高良シェフでこそ、到達できる料理なのかもしれない。
よく「料理が進化した」と表現されることが多いが、料理に進化という言葉を使うのは、的外れな気がする。それより「深化」だろう。
新しい店での高良シェフの料理は、そのキャリアと料理を知る僕にとって、まさに「深化」を感じさせる料理である。


そしてソースも深化した。
「ソースはセオリー通りに作ったら、小麦粉で繋がなきゃいけない、血で繋がなきゃいけない、アルコールもたくさん入れる。いや、素材がキレイに持ち上がっているんだから、ちょっと違う。今はそのエッセンスを、フォンドヴォーとかブイヨンとかそういう名前の液体で伸ばしただけのソースにしています」。

昼も夜もコースで、昼は、アペリティフアミューズ、アミューズ、前菜2皿、魚、肉、デザート。夜は、アペリティフアミューズ、アミューズ、前菜3皿、魚、肉、アヴァンデセール、メインデザート。共に最後に珈琲という流れである。最近のレストランの皿数や構成とは変わらない。
ただスプーンや泡の料理が少ない。確かに最近は、スプーンを使って食べることの多い皿が続き、液体の泡が連続して、液体だけでお腹がいっぱいになってしまう料理が多い。だが世の中は、そろそろ違う、皿一つ一つの味わいの厚みとたくましさを欲している。


「これから育っていく願いも込めてつけました。色々なお客様と出逢ってお客様との関係が育っていき、店自体がどんどんどんどん育っていく。そういう風にこれから伸び、育っていく気持ちを込めて熟成とつけました」。
今の成功に慢心しない。
常にもっといい方法はないかと、明日の成長を考える。それは優れた職人の証である。50代で常にその職人魂を磨き続けようとする高良シェフと、店のさらなる熟成に目が離せない。
【メニュー】
コース
昼 7,000円~
夜 18,000円~
レストラン ラフィナージュ
〒104-0061 東京都中央区銀座5-9-16 GINZA A5 2F03-6274-6541
12:00~14:00(L.O.)、18:00~20:00(L.O.)
月曜、第三火曜

この記事の筆者:マッキー牧元(タベアルキスト)
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