



特に坂本さんが惹かれたのが、臨場感あふれる鉄板焼きの世界だった。それまでとは全く異なる「肉」の世界への転身。それでも25歳で強い覚悟を胸に鉄板焼き『かいか』の門を叩き、肉の基本を一から叩き込まれると同時に対面接客の技を磨き続け、ついに2017年11月、銀座の一等地に自らの城『肉割烹ゆうざん』を構えた。「銀座はお客さまも一流で教えていただくことも多い。この緊張感を知ったらもう他の土地へ行けません」。
ひと口で胃袋を支配する挨拶代わりの前菜
「肉割烹コース」は全15品で18,000円から。メインの炭火焼は黒毛和牛のサーロインやヒレ、銘柄牛の5種類から選べる。「使う黒毛和牛はA4、A5ランクだけ。肉のコースでは前菜や八寸から肉を使い、季節によってジビエもお出しするので常に10種類以上を扱います」。前菜に始まり、椀物、八寸、炭火焼とそのどれもが割烹のオーセンティックな姿勢を前提に非日常な高揚感を秘め、食べ手の食的好奇心を刺激するものばかり。

主役たる肉の良さはもちろん、奥底の甘さを引き出されたタケノコも、果ては木の芽の風味を下支えする西京味噌や下仁田ネギのとろける甘さを受け止める麦味噌までも食べ手の期待を飛び越えてくる。素材の持ち味を際立たせる。そんな坂本さんの信条が込められた挨拶代わりの一皿だ。

すっぽんだしに潜らせた色気たっぷりのサーロイン
「本当に一瞬です」と話す坂本さんの手元に目をやる。ふつふつと沸くすっぽんだしの横で、淡雪のごとき見事な霜降りサーロインが、出番を今か今かと待ち構えている。
お客の目の前で披露する「しゃぶしゃぶ」(写真上)だ。これがまさに刹那の美。薄切りの1枚を黄金色のだしにくぐらせ、瞬時に引き上げる。美しい所作に見とれる間もなく極上のローズピンク色に染まったそれが顔をのぞかせ、秋田で水耕栽培されたセリとともに器へ収まる。


高精度の火入れで真価を引き出す
ここに至るまで一瞬たりとも飽きさせることなく、さて、待望の炭火焼。焼いては寝かせ、遠赤外線で脂を落としつつ手塩にかけて30分火入れした「黒毛和牛のヒレ」の、中心にかけてロゼ色が濃くなる芸術的な色合いたるや。「お恥ずかしい話、ナルシシストと思われるかもしれませんが、焼き台の前にいるとうっとりします。肉を焼くときが一番気持ちが高まって、自分でも『うわ、おいしそうだなぁ』と思いながら焼いています」と坂本さん。

一片を口にした瞬間、落とされた。焼き目が歯にほんの少し抗ってみせたかと思えば、すぐさま内から瑞々しいうまみが顔をのぞかせ、ほの甘い後味に舌が虜になる。ただしわざとらしさは皆無。目を閉じ、ゆっくり咀嚼して感じられる次元での愛ある揺さぶりである。

坂本さんの料理人としての美学を身をもって知った今、その口から発せられた「ナルシシスト」という茶目っ気の裏に隠された静かな情熱にまた、心を打たれずにいられない。
撮影:平瀬夏彦
【メニュー】
・肉割烹コース 18,000円~
・昼のコース 6,500円~
・昼の御膳 3,800円~
※価格は、昼は税別・サ―ビス料込、夜は税別・サービス料別
肉割烹ゆうざん
〒104-0061 東京都中央区銀座6-8-7 交詢ビル4F050-3373-9730
昼11:30~15:00(L.O.14:00)、夜17:00~23:00(L.O.22:00)
月曜

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この記事の筆者:井上こん(ライター)
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