
1年間限定営業。西荻の隠れ家中国料理店

目立った看板はなく、目印は建物の白壁にある“etsu”という文字のみ。こげ茶色の木枠に縁どられた全面ガラス張りの外観は、一見するとビストロやカフェのような雰囲気で、よもやここが中国料理のお店だとは誰も思わないだろう。

スパイスがほんのり香る、やさしい味わいの“家常菜”
“中国武蔵野地方料理店”と銘打った『壱年茶虎』の料理は、野菜が中心の家常菜(家庭料理)。旬の素材が持つ甘みや苦み、食感などそれぞれの持ち味を活かしながら、スパイスを使ってさらに奥深い魅力を引き出す、滋味でやさしい味わいが特徴だ。一般的に「中国料理」といえば、油通しした肉や魚に甘酢餡をからめたようなこってり味を連想する人も多いのではないだろうか。しかし倉林さんの料理は、そうしたガッツリ系の中国料理とはアプローチが全く違う。
料理の品書きは「アラカルト」と「お任せコース」の2種類。「湯葉と青菜炒め」や「牛肉とトマト炒め」など、炒め物の種類が多いアラカルトメニューに対し、コースではお酒のアテになるような前菜や和え物、蒸し物などが小皿盛りでちょこちょこと楽しめる。





腐乳とは、中国やベトナム、ミャンマーなど東南アジアの各域で食べ伝えられている豆腐の発酵食品。その味わいは沖縄の「豆腐よう」に近く、まったりとクリーミーかつ濃厚なコクと塩気がある。
「腐乳ってどんくさいチーズみたいな味なんです」と笑いながら愛ある表現で説明する倉林さんは、その腐乳をペースト状にのばし、味の濃い秋鮭と合わせた蒸し物に。ほかほかの蒸したてから漂う紹興酒と舞茸の芳香も心地よい。西京焼きよりも個性的で、かつホイル蒸しよりもコクのある大人のための蒸し料理に仕上がっている。
さて、この蒸し物に合わせたいおすすめのアルコールが、広島『竹鶴酒造』の「竹鶴 純米 八反」の2014年ものだ。熟成された淡い橙色が美しいこの日本酒は、料理を選ばない食中酒として評価が高い「竹鶴」純米酒のなかでも、とりわけ高い酸の風味が特徴。燗酒にするとさらに芳醇な味わいが際立ち、どこか紹興酒を感じさせる。パンチの強い秋鮭の蒸し物をしっかりと引き立ててくれるだろう。
味の決め手は豊富なスパイス使い
数年前から中国各地を度々訪れている倉林さん。大都会化した観光地よりも、そこから外れた山岳地帯や、農村地方に伝わる素朴な郷土料理に魅せられているのだそう。今年旅したのは中国南西部にある貴州省で、前述のスパイス、木姜子(ムージャンヅ)も貴州省の特産品として知られている。

香りだけでごはんが食べられそう! 名物の「麻婆豆腐」


顔を近づけると、まず最初にふわっと立ち上がるのは花椒と山椒の鮮烈な香り。この香りを嗅ぐだけでも身体によさそうだ。そして口に含むと、牛挽き肉の上品なうまみと共に、豆板醤や豆鼓醤、甜麺醤などが織りなす複雑なコクと、自家製辣油のピリッとした辛みが感じられる。
スパイシーさはほどよい具合で、辛いのが苦手な人でも気にならない程度。この麻婆豆腐の本当の主役は、幾重にも重なる香りとうまみの”奥行き”なのだ。これはおいしい! この味を求めてやまない常連客が多いのも納得できる一品だ。

「いつの日か、”中華を食べに行こう”となったら、そういう繊細な家庭料理がスタンダードになる日がくるといいな思っています」と自身の想いを明かしてくれた。
この『壱年茶虎』の年内の営業は、12月25日前後までを予定。その後は関東近郊に場所を移して店を構える計画もあるという。同店の料理を休日や仕事帰りに気軽に食べられるチャンスはあと2カ月!ぜひ一度訪れてみてほしい。

壱年茶虎
〒167-0053 東京都杉並区西荻南2-25-10 etsu0422-77-6769
17:00~23:00
水曜

この記事の筆者:中村結(ライター)
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